第105話 告白
彩音の言葉を聞いた瞬間、俺は頭が真っ白になった。
俺も彩音のことは好きだ、義理の妹だとしても付き合いたい、幸せにしたい。
兄妹だとしても、俺は彩音のことを心から愛している。
でも俺は世界大会に万全の状態で挑みたい。
この2つを天秤にかけた場合、どちらを取るのが正解なのかわからずいた。
そんなことを考えていると、彩音は俺の肩に寄りかかった。
「彩音……」
「お兄ちゃんは私のこと、どう思っているの?」
「……好きだよ」
「……家族として?」
「……いいや」
「……兄妹として?」
「……恋人として」
思わず心の中に沈めていた感情を言ってしまった。
もう後に引き返すことなんてできない。
両親や友人にバレた時、どんな反応をされるのか考えたくもない。
軽蔑されるか、はたまたバカにされるか。
でも、俺の気持ちを彩音に伝えた時後悔はなかった。
むしろ、心の奥底で貯めていた感情を解放した感覚で、どこか清々しい。
俺が下を向き、恥ずかしげに言うと彩音は涙目になりながら俺の手を優しく握った。
彩音の顔を俺がちらりと見ると、彩音はニコッと笑った。
恥ずかしげに顔を赤らめる彩音を見て、胸が熱く感じる。
この瞬間をどれだけ望んだかわからない。
義妹に恋愛感情を持つことはいけないことだと思いつつも、高鳴る胸の鼓動は止まることを知らず、心臓のドクンという音が激しさを増した。
「今だけ、彼女になってもいい?」
「……ああ」
彩音はそう言って、俺にハグをした。
俺も彩音を抱きしめ、彩音と顔が近くなった。
「これ以上は……ダメ……まだ……私には早いかも……」
「お、おう……」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしている彩音を見て俺は抱える手を離した。
恋人らしく口を合わせたキスをするのかと思って構えていたが、ハグだけのようだ。
流石に中学生の女の子に一線を超えるようなことはできないし、する気もない。
だが、彩音の表情を見ると危ない気もしたので、断ってもらえたことで冷静になれた。
彩音も俺を抱きしめる手を離し、隣に再び腰掛けた。
「私ね、はっきりとさせたかったの。このままお兄ちゃんへの気持ちを伝えずに世界大会へ行っても、多分真剣にゲームできないと思って……」
「彩音……」
彩音は俺と同じことを考えていた。
そのことを知って俺は嬉しく思い、安心した。
というのも、コーチとして彼女たちの合宿に参加した時、なんというか彩音たちは『勝利』というよりも『楽しさ』を優先しているようにも感じた。
プロゲーマーという存在において、その思考はよくないんじゃないかと俺は思っていた。
別に彼女たちはお金を稼ぐために専業でやっていないし、スポンサーも緋奈ちゃんパパだから好きにやらせるタイプだ。
それに実力も異次元だから文句を言うわけにもいかないかもしれないが、俺視点ではこのままの考えでは世界大会で敗北するだろう。
何せ相手はグランディネアと同等かそれ以上の猛者、俺たち同様修羅場を超えてきた最強プレイヤー。
研究量が明らかに不足している今の練習の仕方では勝てないと思う。
だから可憐や雪奈にコーチやマネージャーの手伝いをしてもらったわけだが、やるかやらないかは彼女らが決めることだ。
彩音たちの実力は確かに北アジアではTOPレベルだが、各国のプロ相手に通用するかは未知数だ。
確実に言えることは、俺らと彩音たちがrallyに勝つのは不可能という時点で優勝はできないということ。
コーチとして客観的に見て、その問題を解決し勝つにはまずリーダーの彩音が変わらないといけない。
だから彩音の本気で挑む姿勢が見られて嬉しく思った。
なんというか、彩音が本気で勝ちに行っているのを知れて世界大会で戦うのが楽しみになってきた。
「……正直、俺も彩音と同じこと考えてた」
「んじゃあ世界大会が終わったら、もう一度言うね。その時に返事をちょうだい」
「……うん」
俺と彩音は手を繋いでいた手を離した。
俺は世界大会が終わった瞬間から、彩音を幸せにしてやると心の中で誓った。
「みんなには内緒にしてね……」
「そりゃあ当然、内緒にするつもりだ」
緋奈ちゃんや可憐に話したら、どんなイジリをされるかわからないので安心した。
「ありがとう。んじゃあこの話はおしまい、明日から頑張ろうね!! おやすみ〜」
彩音はそう言い、ベッドから立ち上がった。
「ああ、おやすみ」
「……ッ」
彩音が俺の部屋を出た後、俺は緊張が解けて枕を抱きしめながら寝転がった。
生まれて初めて、俺は告白をした。
もともと仲がいい義理の妹だった彩音を好きになったのはいつだろう。
推しの配信者の正体だと知った時? 初めて彩音と会った時? ランキング大会が終わった後??
(……いや)
自問自答していると彩音にキスをされ、キスをしたあの瞬間が頭をよぎった。
両思いだとわかった今、あのことを思い出してさらに胸の鼓動が早くなった。
恋愛というものに無縁の人生だったので、こんなにも恥ずかしいというか緊張するというか、言葉で表すには難しい感情になるとは思わなかった。
「……よかった」
ペットボトルに入った水を飲み、感情を落ち着かせたのち独り言を言った。
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