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週末を迎えた。土日ほど、私にとって嬉しい曜日は無い。土日は基本的に会社が休みだからだ。この日は土曜日。日中は平日の仕事の疲れで遅くまで寝ていたり、起床後は適当にカップラーメンを食べたりした後、スマホをいじったりPCゲームをしたりして過ごしていたが、夜から予定があるため、私は身支度を整えて家を出た。
今夜、私の彼氏――レイジに会うのだ。
自宅の最寄り駅から電車で二〇分ほど移動した所の駅で降りる。そこは高層ビルが林立する大都会だった。駅を出た先の待ち合わせ場所にレイジが立っていた。
「おはよう」
私が挨拶すると、レイジも「おはよう」と返してくれた。雑踏の中でもレイジの姿は目立つ。一七七センチのスリムな長身に、目元まで掛かった黒髪から覗く鋭い目付きで、周囲の人々と比べて一層の荘厳な雰囲気を放っている。
私も身長は一六一センチあって、自分で言うのも何だが細身な方だと思っている。肩の下まで掛かったダークブラウンの髪という要素も合わさって、よく周りからは「おっとりした雰囲気」とか「物腰の柔らかい美人」とか言われるが、主観的には完全にそうとは言い切れないと思う。外見は主観と客観が一致していると思うが、予定のない休日は自分でも自堕落と思うくらいの生活をしていたり、お転婆な言葉が出ることもあるため、中身の面では恥ずかしいくらい劣等だと思う。それはさておき、私達二人は適当に雑談をしながら、目的のレストランに向かった。
レストランは一〇〇〇円~四〇〇〇円の価格帯で、そこそこ値の張る所だった。イタリア料理店だったが、イタリア料理が食べたくなり、レイジにLINEで相談したところ了承を得たため、近況報告も兼ねてここで食事することになった。
料理が到着するまでの間、私とレイジは互いの仕事や生活の近況などを話し合ったが、その会話の中には無論、例の踏切の件もあった。
「……ってわけなんだよ。本当に信じられない。踏切に時間を無駄にされたとしか思えないよ」
私の言葉はもはや愚痴となって、レイジを前にして漏れていた。
「確かに珍しいよな。今までにそんなこと無かったんだろ?」
「本当だよ。故障なのか知らないけど、マジで踏切が閉まってる間、電車が全く来なかったんだから」
そんな私の愚痴をどう受け止めたかは分かりかねるが、レイジは軽く溜息を吐いた後、私に言った。
「よく分からない踏切だが、今回はまだ不幸中の幸いとも思える。逆にバーが開いてる時に、電車が来たら考えたくもないくらい怖いけどな」
まさにその通りである! 踏切が開いている時に電車が来たりなんてしたら――どうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。
そうこう話しているうちに食事を終え、私達は解散した。帰宅した頃には既に夜十一時を回っていた。その後はシャワーを浴びて就寝し、日曜は完全に予定が無く適当にダラダラ過ごし、月曜日を迎えた。
月曜日もいつも通り定時で仕事を終わらせて、退勤した。いつものように自転車で帰路を進み、あの踏切にも遭遇する。この時、踏切は開いていた。だが、何か様子がおかしい。バーが開いているのに、車の列が一向に進んでいなかったのだ。私も普段から踏切を通過する時は一時停止をするが、ここで更なる異変に気付く。
……コトン、コトン
そんな音が踏切の左側から聞こえた。何かが接近しているのだろうか。
コトン、コトトン、コトコトコトカタカタガタ……
次第に大きくなっていく音。そして、その接近している物の正体は言うまでもない。電車が、踏切の左側から迫っていた!
――えーっ! こんなことってある?
私含め周囲の人々や車は皆危険を察知して、その場に留まっている。踏切に入っている人や車は誰もいない――と思いたい所だったが……。
反対側の車道脇から一台の自転車がひょっこり姿を現した。乗っているのはヘルメットを被った下校中の男子中学生だった。そして、その中学生は安全確認をせず、そのまま踏切に進入していった。
「何考えてるの? 危ないよ!」
私は咄嗟に大声を上げて注意した。しかし、時は既に遅かった! 迫り来る電車が男子中学生に衝突しようとしていた。まさにその寸前だった!
男子中学生の背後から何かが男子中学生の体を掴んで、それを上に持ち上げた。男子中学生の体は自転車ごと宙に浮いた。その瞬間、電車は男子中学生の真上を通過し、甲高い「キーン!」という音を響かせながら急停止する。
続きは次節(3)にて