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ホッと息をついて荷物を片付け始めた。

それにしてもなんて恐ろしいところだ。ジャスが先に来なくてよかった。勿論女である私がくるのは、別な意味で危険だが、私にはその危険をある程度察知する能力がある・・そう能力が・・


実は私には相手の考え、思考を香りで感じ取ることができる。特に怒りや悲しみ喜びなど、感情に揺らぎが生まれるとその香りは格段に強く私の鼻に届く。そしてその香りから考えていることや性格、果ては相性のようなものまで読み取れてしまうのだ。

ちなみにロイ先輩は優しく穏やか、裏表のない性格をしているようだ。お父様と同質の香りがすることから、おおらかで、ちょっと心配性な性格かもしれない。とにかく一緒にいて安心できるのはとても助かる。


 この能力は家族と屋敷の執事、女中頭しか知らない。

物心がついてない小さな頃はそれが普通だと思い、誰彼構わずそのことを伝えてしまい、薄気味悪がられて騒動を起こしかけた。家族が私の能力に気づいた後は、その能力がバレないよう気をつけてくれたため、今ではそういうことがあったことすら忘れさられている。

ただ小さい頃のトラウマのせいで、家族意外と接触することが極端に怖くなった。そのため、この学園でたくさんの香りにさらされることは、私自身どうなるか不安だった。家蔵も実は女とバレるよりも(それは女性としてどうかと思うが・・)そちらを心配していたのだ。

でも心配していたほどではなかった。香りは確かに雑多に感じるが、その分わかりにくくなる。ぼやけるといったらいいのか、少し煩わしく感じる程度ですんでいる。部屋で二人っきりの場合ははっきりわかるみたいだけど・・


「そろそろ、良さそうか?」

ロイ先輩の声にハッとして、顔を上げると、本を手にベットに座っている先輩がこちらを見ていた。どうやら待っていてくれたらしい。

「すみません。お待たせしました。」

私もあらかた片付いていたので、軽く身支度を整えて、先輩の後について部屋を出た。


やっぱり見られている・・

「あらら、やっぱり注目されてるねえ。」苦笑いしながら、ロイ先輩が言った。

この時になって、なんで見られていたのかわかった。性別がばれたのではなく、そういう目で見られていたのだ。周囲に家族しかいなかったためわからなかったが、これは少し欲を含んだ値踏みするような香りだったんだ。勿論無関心の人が大半だが、自分に向けられているとそれをより強く感じてしまうのだろう。ロイ先輩の後ろを、少し居心地悪く思いつつ歩いていると、

「ロイ、随分可愛いかたを連れていますね。失礼ながら趣旨を変えられましたか?」

落ち着いたダークブロンドの髪を、さらりとサイドに流し、切れ長の目に細い銀縁のフレームの眼鏡をかけた青年が近寄りながら話しかけてきた。通った鼻筋に薄い唇、一つ一つのパーツは主張しないが、絶妙なバランスで配置されており、涼しげな美青年だった。なぜか私とロイ先輩に向けて、刺々しい香りが発せられている。ロイ先輩は慌てて、

「そんなわけないだろう!ジャス、こいつはアルフレット・ファイフで俺と同学年だ。でこっちは今度同室になったジャスティン・ハミルトンだ。アルは俺の婚約者の兄上様なんだよ。」と教えてくれた。


「よろしくおねがします。ファイフ先輩、僕のことはジャスと呼んでください。」そう挨拶すると、幾分柔らかい香りになったファイフ先輩が、

「失礼しました。私のことはアルでいいですよ。ロイと同室とは大変でしょうが、懲りずに付き合ってください。」と、優しい声で言ってくれた。少し厳しさを感じるが、決して嫌な香りではない、信頼できる香りにちょっとほっとした。どんな時も落ち着いているお母様の香りに似ているかな?またしても馴染みの香りに触れられて嬉しくなった。ロイお父さんにアルお母さんか、だいぶ失礼なことを考えていると、

「アル、俺と一緒で何が大変なんだよ!失礼なやつだな!」ロイ先輩が不満げな顔でアル先輩に詰め寄っている。

「そんなことないです。ロイ先輩にはとてもよくしていただいています」と私が慌てて伝えると、

「ロイ、彼に手を出したら、可愛い妹のマリーとの婚約は解消ですからね。」と冷たいアル先輩の声。

「出すわけないだろうが!俺は男に興味はない!」

「それはわかっていますが、本当にジャスくんは可愛らしいですね。私も一瞬女性かと思いました。」

ひっ、鋭い・・アル先輩には気をつけよう・・


「全くその通りです。私にもぜひ紹介してください。ロイ」

声と共に、急激に甘い香りが立ち込める。濃厚すぎるその香りにギョッとしていると、すかさず右手を取られた。

「可愛らしいあなた、ぜひお名前を教えていただけませんか?私はランドルフ・ダドリーと申します。ぜひ愛を込めてラントと呼んでください。」華やかな微笑みとともに、金髪碧眼の派手派手しい美形が私の右手に唇を落とそうとしていた。慌てて手を引っ込めて、ロイ先輩の背中に隠れた。

「大丈夫だ。いや大丈夫じゃないか?ジャスこいつも俺の同級だ。見た目はこうでも中身は・・中身も、まあナンパな奴だが、根をいい奴・・だが、手が早くて浮気者だから気をつけろ。」

一体どっちなんですか、ロイ先輩?!

とりあえず、ロイ先輩の後ろから顔だけ出して、名前を名乗り挨拶を交わした。

「浮気者などとひどい言い方だよ。私は博愛主義者なだけだ。可愛い人が多すぎるのがいけない。その愛らしい唇が僕を受け入れてくれたら、こんなに嬉しいことはないよジャスティン・・」

ピンク色の香りとは、このようなことを言うのか。それを濃厚にまとったまま、すかさず、頬に触れようとしてくる。でも悪い人ではなさそうだ。ラント先輩の濃厚な甘い香りは、決して無理強いをしてくるような強引さを感じない。きちんと相手の気持ちを考えてくれる香りだった。ひとまずこの二人の先輩はロイ先輩同様大丈夫そうだった。

ひとまず安心していた時、それは突然やってきた。今までに感じたことのない強烈な香りが自分を一気に取り囲んだ。その香りに煽られるように心臓がドクドク音をたてて脈打ち、自分の意識が全て引っ張られ、後ろを振り返った。そして視線がある一点に惹きつけられたのだ。




 

やっと青薔薇様登場です。

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