(13)
「僕は香りからいろいろなことがわかるんです。人にはそれぞれ固有の香りがあります。僕はそこから性格とかそのときの感情とか、あとは相性とかそういうことがわかるんです。信じてくれないかもしれないけど本当にわかるんです。今、目の前にいる人?というか本?からは、悪い感情が全然感じられないんです。むしろからかいまじりの優しさというか愛情すら感じられるんです。」
「あ~あ ばらしちゃったか。だめだよ。それ言っちゃあ~」ためいきとともにラント先輩もどきのライオネルが苦笑いしていた。
「どういうことだ…」キース先輩がいぶかしげに訊ねた。
「バクレーの末っ子、いいかげんこの子に本当のことを教えてあげたらどうだ?たぶんこの子で間違いないぞ。おまえが悩む気持ちもわかるが、バクレーの宿命からは逃れられないぞ。」
「…」
「どういうことですか?キース先輩。教えてください。」全く意味がわからず、首をかしげて聞いてみると、キース先輩が周りをみながらためいきをついた。
「もしかして、こいつをここに連れ込んだのは、これが目的だったんですか?」
「まあ そういうことだ。いいかげんじれったくなってな。いつ確かめるのかとみんなで待っていたんだが、全く手を出さないしな。みんなやきもきしてたんだよ。そんなときにこの扉の前の書架に、この青年、ラント君だっけ?が相手を連れてやってきてね。口説き始めたから、ちょっと体をかりてみたんだよ。」ライオネルは自分(ラント先輩)を指さしながらたんたんと説明する。
「…それならここまですることはなかったのでは…」
「もしかして、おどしたら、バクレーの力を具現化するためにこの子に強引に迫るかな?とちょっと考えてね。みんなで計画してみた。」ニヤリと笑いながら悪気なくライオネルが言い放った。
「なにやってんですか…あなたたちは…」
疲れたように脱力しているキース先輩の珍しい姿に驚きつつ、周りに視線を向けると、いつの間にか集まっていた幽霊たちがうんうんとうなづいている。
「わかりました…」根負けしたように、キース先輩がすくっと立ち上がると、僕の腕をひっぱり上げた。
「それでも見世物になるのは嫌ですから、二人だけで話します。ここから出してください。」
幽霊たちはしょうがないなあとほほえみを浮かべ、扉を開けてくれた。
「そうだ 待ってくれ。この少年も連れて行ってあげてくれないか?ここ1週間くらいは体をのっとって、私が動かしていたからなにも覚えてないし、彼の意志でやったわけではないから、怒らないでやってね。」
そういうライオネルにためいきをつきつつ、キース先輩が了承した。
ラント先輩をかかえて図書館の入り口をでると、そこにはアル先輩とロイ先輩、そしてクリスが蒼白な顔をしてうろうろしていた。
「だいじょうぶか~ジャス、キース」泣きださんばかりの顔で駆けつけてきたロイ先輩に二人とも抱きつかれた。苦しいですロイ先輩…
「いったいどういうことですか?キースに続いて図書館に入ろうとしたら、図書館の扉が開かなかったんです。あなたはすんなり入ったのに、いったい何が何やら…ロイは扉を壊してでも入ろうとするし、困っていたところにクリスが来て、少し待っていてくれと言われたんです。」
「キース兄さん、大丈夫ですか?ジャスは無事?なんともない?」ほっとした顔で話しかけてくるクリスを見て、僕はクリスも図書館の秘密をある程度知っていることに気付いた。
「アル、ロイ、これからジャスに話したいことがあるから、こいつを預かってくれ。」そういいながらラント先輩を指さした。さっきロイ先輩に抱きつかれたとき、ラント先輩は地面にほおり投げられてしまっていた…
「1週間くらい操られていたから、体力が消耗していると思う。命に別状はない。それからクリス、アルとロイにはある程度の事情を伝えておいてくれ。」
「いいんですか、キース兄さん」
「ああ二人ならかまわない。俺からもそろそろ話そうと思っていたから、大丈夫だ。それからアル、ロイ、クリス、今晩俺とジャスは別なところにいるから、寮内でそれがばれないようにしてくれ…」
「おい 待てよキース…それは…」ロイ先輩が慌てて、キース先輩に詰め寄ると、それを制するようにアル先輩が前に出てきた。
「キース、一つだけ確認します。ジャス君に何か無理強いすることはありませんよね。」何かをさとったようにアル先輩がキース先輩に鋭い目を向けた。
「それはない。」はっきり言いきるキース先輩に、納得したようにアル先輩はうなづき「わかりました。寮内のことは任せてください。」と請け負ってくれた。
クリスはほっとして、手に持っていたバスケットをキース先輩に預けた。




