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九十九話

事後の表現があります。ご注意ください。

『大丈夫ですか!?む、無茶しますね……!?』

『……お姉さん、疲れてます?』

『何かあったんですか!?や、やっぱり肝臓悪くなっちゃったんですか……?』

『いいですよそんくらい。じゃ、また』




『っ、すずさん!』



 ───思えば、彼は出会った頃からずっと優しかったなぁ。


 何となく感じた朝の気配に薄らと意識が浮上する。ぼーっとした頭で思い出すのは、いつものコンビニで会うはるかくんのことばかりで。


 たかが顔見知り程度でしかない女にも気を遣ってくれる優しい彼に、私はいつから惹かれていたんだろう。


一つ一つ、彼との出来事をと丁寧に思い返す。


 存在を認識したのは春先、話すようになったのは強盗事件の後からだからゴールデンウィーク辺りだ。それから夏に葵ちゃんと仲良くなって、ふたりが兄妹だって知って。

 秋口からは毎日一緒にゲームするようになって、冬の初めにはるかくんの過去を教えてもらった。


 明確なきっかけは分からない。けど約一年を共に過ごした彼は、私にとってもはや無くてはならない存在になっていた。私だけがそうなんだと思っていた。


 でも、そうじゃなかった。


「……ん、朝……?」


 鈍い思考を巡らせていると、お腹に回された腕に力が籠った。すぐ後ろから聞こえた掠れた声にギクリと体を震わせる。


「ひぇ……は、はい。おはようございます……」


「うん……」


 自分の体を後ろから抱くはるかくんがもぞもぞと身動ぎをし、背中に流した髪に顔を埋めた気配がする。顔を見ていないのに感じる色気に喉から引き攣った声が漏れる。


「……5時か。すずさん何時の電車だっけ……?」


「え、と、ここから乗るなら8時くらいのですかね……?」


「ん。……まだ時間あるな」


 眠そうな声に上擦った声で「そ、そっすね……」と返事をする。

 ひいい背中にはるかくんの胸板を感じる……っ!自分の体温より僅かに高い彼のそれに全身が包まれているせいで、昨日の夜にこのベッドで行われたアレソレが鮮明に思い起こされてしまう。


 ……いや、まあ。めちゃくちゃに幸せだったけど。幸せだったけどぉ……っ!!


 一晩経って冷静になった今、自分から誘ってしまったという事実に羞恥心が今更ながらに込み上げてきた。わわわ私はるかくんと何という事を……っ!!羞恥と背徳感に奇声を上げそうになる口を必死に抑える。


「に、二度寝します……?」


「いや起きる。勿体無いから」


「勿体無い?」


 早起きは三文の徳的な話か?首を傾げると突然ぐいっと腕を引っ張られた。強引に体が反転され、寝起きの顔のはるかくんと向き合わされる。


「おはよう」


「ひ、ぃ……っ!?おおおおおおはようございますっ!!」


 気怠い雰囲気を漂わせたはるかくんに微笑まれて咄嗟に鼻を抑える。っぶねぇ鼻血出るところだった!!

 美形のエロすぎる笑みに朝っぱらから瀕死の重体に陥る。しかし人一人死に追いやりかけたはるかくんは私の挙動不審な行動を気にした様子もなくベッドから起き上がった。


「二択なんだけど」


「はい?」


 釣られて私も起き上がる。シーツで胸元を隠す私を振り返ったはるかくんは、たまに見せる意地の悪い悪魔のような笑みを浮かべた。


「早めにここ出てどっかで飯食うか、もう一回するか。……どっちがいい?」


「ぐっ!!!???」


 耳元で囁かれたお誘いにまたしても鼻血が出そうになる。うううああああやばい昨日のが蘇る!!顔を背けて迫る体をぐいぐいと押し戻した。


「きょ、今日の仕事に差し障りが出そうですので!!朝ごはんでっ!!」


「だよねぇ、俺も」


「う、ぐ、ぐぅ」


 のんびりとした同意にじゃあ誘うな、と声を荒げそうになる。その艶っぽい顔をやめろ殺す気か……っ!!思わず睨みつけると着替えを始めたはるかくんから「その顔やめて」とダメ出しが入った。


「え?何が?なんでですか?」


「……まだしばらくは年上としての面目を立たせておきたいからやめて」


「はい?」


 どういう意味かと尋ねれば、なんだか疲れたような表情だけが返ってくるのだった。









「もう元彼来ないと思うけど、一応今日も駅まで迎えに行く」


「へ?あ、ありがとうございます」


 ホテルを出て、早くからやっている駅前のカフェに向かう道すがら。問答無用で繋がれた手にドギマギとする内心を抑えているとそんな言葉が頭の上に落ちてきた。お礼を口にしながらも何故だろうと首を傾げると、はるかくんはうんと頷いた。


「そんで泊まりのセット持ってきて。数日分」


「は?」


「引っ越しまで一週間も無いけど、引っ越し当日まで俺の家で一緒に住む予行練習しよう」


 緩み切った顔で恥ずかしげもなくそう言い放つはるかくん。その笑みを呆然と見上げた私は、手を離してすすすっと後退した。


「……はるかくん。私に近づかず、常に距離を取ってください。3mくらい」


「!!?!なんで!?」



 死ぬからだよ、私が。





次話ラストです。

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