七十九話
私とはるかくんが友達となったあの日から早くも二週間が経過した。
警察が見回りを増やしてくれているおかげかあれ以来元彼が私の家に突撃してくることは無く、一応平穏無事に日常を送ることができている────
「すずさん。おかえり」
「……ただいま戻りました」
────と、思うじゃん?
むしろ私の日常、今えらいことになっています。
最寄り駅の改札を抜けた私を出迎えたのは、その美しいかんばせを柔らかく緩める背の高い男。周囲の女性たちがチラチラ自分を見ているにも関わらず一切気にした様子のない彼に、私は今日も今日とてひくりと口の端を引き攣らせるのだった。
元彼に家を突撃されたことを受けて、いい人日本代表選手であるはるかくんは本当に私を毎朝毎晩最寄り駅まで送り迎えしてくれている。朝は家まで迎えに来て駅まで送って行き、夜は最寄り駅まで迎えに来てくれてコンビニに寄りながら家まで送ってくれるのだ。
勿論そんなに心配しなくていい、と改めて固辞は示した。だが「顔見知りの男じゃなくなったんだからいいでしょ」といい笑顔で言い切られてしまえば自分で言った手前もう反論なぞ出来やしない。何故かむしろノリノリな彼に丸め込まれてしまったのだ。
助かるけども、いやもう非常に助かるのだけれども、正直申し訳なさ過ぎて死にそうです。
確かに友達申請の言い訳として『友達でもない人に送り迎えしてもらうとか恐れ多い』とは申しましたけど、そうじゃないじゃん……。
とはいえありがたいことには変わりないので、折れた私は今日も夜だというのに眩しく輝く美形に目を細めながら駆け寄るのだった。
「すみません。遅くなってしまって」
「気にしないで。不動産屋寄って来たんでしょ?」
「はい」
はるかくんの隣に並んで歩き出す。彼の言う通り、ここ数日前から私は井上さんの助言通り引っ越しをすべく不動産へと足繫く通っていた。
いくら腕に覚えが多少あると言っても、警察に刃向かうような男が把握している家に住み続ける勇気はない。善は急げと色々な不動産屋に足を運んでは色んな物件の情報を見せてもらっているのだが。
「でも、人見知りなので不動産の人と内見行くの苦手なんですよね……二人きりで気まずいじゃないですか」
「あー、ちょっとわかる」
はあ、とため息交じりに小さな悩みを吐露する。不動産屋で引っ越しを考えていますと言えば住宅情報を見せてもらう訳で、そしていい物件があれば当たり前の話だが現地に行ってみて見ましょうかという話になる。
すると必然的に担当してくれている営業マンと車で向かうことになるのだが、コミュ障クソ陰キャにはその他人と車で二人きりという状況は非常にハードルが高い。何話せばいいか分からない。
仕事モードに頭が切り替わったままであれば不自然にならない程度の世間話も展開できるが、不動産屋に行くのなんて通常仕事終わりとか休みの日だ。当然仕事モードはオフになっている。オフモードの私にできることなんてせいぜい「おぁ……はは……」と引き攣り笑いを浮かべること位だ。
そんなの滅茶苦茶気まずい。出来れば行きたくない。ので、今日とかも住宅情報見せてもらうだけで終わらせてしまった。
だがしかしそれにも限界がある。実際に見ないと分からないことは多々あるのだ。周囲の治安とか、実際の駅までの道とか、諸々。逃げ続けるわけにはいかない、とは分かっているのだけれども……。
「……じゃあ、俺一緒に行こうか?」
「は?」
気の重いイベントに肩を落としていると、思いがけない言葉が傍らから降ってきた。死んだ目ではるかくんを見上げる。
何故か流し目を寄越す彼はこともなげに言い放った。
「営業の人と二人なのが気まずいんでしょ。俺一緒に行けばよくない?」
「……………………はい?」
現在進行形で迷惑をかけまくっているというのに、いい人日本代表は更に善行を重ねてやろうかと私に提案をしてきたのだった。
ラストまでの展開を大幅手直し中のため今日はこれだけになります。短くてすみません。
次回更新は5/11の予定です。よろしくお願いします!




