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76話

「……貧乏神に捨てられた私の物件買いに来ないでくださいよ、はるかくん」


「勿論。ところで全然関係ないんだけど俺そろそろヨーロッパに進出したいと思ってるんだよね」


「血も涙もない……っ!!」


 くうっと悔しそうに呻くすずさんと並びたってコンビニまでの道を歩く。


 ゲーム大会だオールだと葵が言い始めた時はまた突拍子もないことを、と思ったものだが、ちゃんとすずさんの気晴らしになったらしい。昨日一緒にここを歩いた時はまるで死人のような顔色だったが、今はだいぶ元気そうだ。楽しげにゲームへの怒りを口にする様子に安堵を覚える。


 俺自身久しぶりに友情破壊ゲームなんてやったものだから年甲斐もなくはしゃいでしまった。すずさんは友達じゃないけど。

 知らず頰が緩む。そんな俺を見上げたすずさんは、ふと口を引き結んだ。


「はるかくん。……改めてありがとうございます。何から何までお世話になっちゃって。あの時はるかくんが戻ってこなかったらと思うとゾッとします」


「え、ああ……たまたまだけどね。でも役に立てたならよかった」


 すでに何度もお礼を言われているので、改まって言われると居心地が悪い。気まずげに頬をかくと、すずさんは静かに首を振ってととん、と数歩俺の前に出た。


 早朝の空気の中、人気のない閑静な住宅街で彼女と向き合う。


「ごめんなさい。私、葵ちゃんからはるかくんの過去の話聞いてしまいました」


「っ」


 驚きで一瞬喉が詰まるも、しかしそれもそうかと思い直して息を吐く。警察との繋がりを自ら見せつけたのだ。過去に何かあったのだろうと思い至るのは当然だ。それにきっと、あの時の俺は顔色最悪であっただろうし。


 少しの不安の色を滲ませながらも、まっすぐ俺を見つめる目をしかし俺は見返せない。


「……まあ、気になるよね」


 情けなく視線を逸らしながら自嘲気味に笑った。


「はい。勝手に聞いてごめんなさい。……きっと今回のことは、はるかくんが過去に負った傷をほじくり返すような事でしたよね。関わるのも嫌だったはずなのにそれでも助けてくれて、本当にありがとうございます」


「……本当に気にしないでほしい。大したことはできてないよ」


「いいえ」


 強い、はっきりとした否定の言葉に顔をあげる。意志の強そうな目に引き込まれる。


「大したことです。本当に、大したことなんですよ。はるかくん」


「……すずさん?」


「尊敬します。嫌でも怖くても、それでも人の為に手を差し伸べられる貴方を。……ねえはるかくん」


 ふと、すずさんが俺の手を取った。握手をするように握られた手をぼんやりと眺め、そして突然の接触に数秒遅れて慌てる。咄嗟に離れようとする俺の手を、しかしすずさんは逃さんとばかりに手に力を込め、ぎゅうっと握りしめた。


「お願いがあります。私と、友達になってください」





───朝日に照らされる彼女に呆気に取られながらも、真っ直ぐに俺を見つける意志の強そうな目に、俺は眩しさを覚えるのだった。





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