六十七話
「貴方が神だったんですね……?」
「んな大げさな」
大げさな訳あるか。私がココア5杯飲んでも出なかったコースターを一発で引き当てたばかりか、欲しかったランダムクリアファイルまで当てて手渡してくるはるかくん、いやはるか様に私は深々と頭を下げた。
いやぁ物欲センサーと妖怪一足りないは本当に恐ろしい。アイツら容赦なくゲーマーとオタクのメンタル殺しに来るからな。
もう一杯ココア追加したらマーライオンしちゃうところだったから本当に助かった。マーライオンしてなお推しと出会えないとか最悪すぎる。
本当にありがとうございます、と居心地悪そうにもぞもぞするはるか様を拝む。すると「やめて……」と神はそっぽ向かれてしまった。なんたることでしょうか。
「すずさんの推しそれなんだ。少年キャラ?」
「あ、公式設定29歳です」
「その見た目で俺より年上……っ!?」
モンスターですからね。そして見た目年齢の話で言えば貴方も大概よ。
白衣を纏う茶髪に青目の少年風キャラのコースターを手にるんるんと心躍らせる。
いいのよこのキャラ、皮肉屋で意地悪なんだけど、なんだかんだ面倒見がいいお兄さんキャラなんだよね。と推しに思いを馳せているとふと既視感を覚えた。
手元のコースターと正面のはるかくんを見比べる。
「なに?」
「いや……そういえばこのキャラとはるかくんって似てるなぁと」
「うん?」
「葵ちゃんと話すときの口調がちょっと似てるんですよね。それに頭良くてゲーム上手で甘党で、お兄さんキャラで面倒見がよくて、あとちょっと意地悪なんですよ。似てると思いません?」
あと顔が良い。年齢に対して童顔。考えれば考えるほどに似ている気がして一人うんうん頷いていると、はるかくんががちゃんっと音を立ててカップをテーブルに置いた。
お?どうした?手滑った?と思わず顔を上げ───僅かに顔を赤くしたはるかくんと目が合った。
「え」
「……すずさん。それ、相手によっては勘違いするから」
「え、あ」
はー焦った、とため息をつくはるかくんの言葉を反芻する。勘違い、勘違い?どういう……。
よくよく考え、そしてようやく悟る。
好きなキャラに似てると言うことはつまり、それに似てる貴方も好き、という、意味、に。
「う、わああ!ちが、違います!違いますからね!」
「分かってる分かってる。落ち着け」
考えなしに放った言葉がどういう意味を持つのか、思い至った私は思わず立ち上がりわあわあと大慌てで否定する。しかし流石大人のはるかくんは、そんなつもりでないことをちゃんと理解してくれたらしい。どうどうと暴れ馬を前にしたごとく宥められる。
ううう恥ずかしい……。顔に血液が集中しているのが分かる。はあああ、と落ち着くべくため息をついた。
「たっだいまー。……何この空気」
「何でもない。行くか。……すずさんは平気?」
お手洗いから戻ってきた葵ちゃんが私とはるかくんの間に流れる微妙の空気を気付いて首を傾げた。しかしはるかくんは特に説明することなく席から立ち上がる。
「あ、はい!」
肩越しに振り返られ、ハッと我に返った私もお会計に向かう二人の後を慌てて追うのだった。




