66話
『事件発生。お兄助けて』
「……は?」
ベッドの上で大いに休日を満喫していた俺は、スマホに届いたそんなメッセージに飛び起きた。
今日はすずさんと一緒に出掛けると言っていた筈だが。慌てて詳細をメッセージで尋ねるも、既読にすらならない。
何か良からぬことが起きたのではないかと、俺は救援のメッセージと共に送られてきた位置情報の場所まではやる気持ちを抑えて向かった。
───のだが。
「…………なにこれ」
現地に到着するや否や、スイーツバイキングの店員に『お連れ様がお待ちです』と笑顔で迎えられた俺は今、何故か大量のスイーツの前に座らされていた。
隣には非常に元気そうな葵。正面にはあんまり元気ではなさそうなすずさんが、五体満足の状態で座っている。
「いやぁ~助かったよ遥。鈴ちゃんの推しが出なくてさぁ」
「こ、こんにちは……うぷっ」
「どうも……」
青い顔で律儀に挨拶してくれるすずさんに挨拶を返しながら、葵に状況を説明しろと目線で訴える。するとバカ妹は分かっていると言わんばかりの顔をしてメニューを差し出してきた。
「コラボメニュー一人一品は頼まなくちゃいけないんだよね。どれにする?」
「なんの説明にもなってねえよ。なんで俺呼ばれたんだよ。事件はどこだよ」
「推しが出ないという由々しき事件が発生してるの。鈴ちゃん甘いの苦手な割にめっちゃ頑張ったんだけど全然でなくてさぁ」
気分が悪そうに紙ナプキンで口元を抑えるすずさんの前には、空のパフェグラスが二つと空のコーヒーカップが五つ置かれている。
どうやら俺が呼び出されたこのスイーツバイキングは、二人が好きなアニメとのコラボをしているらしい。
それで推しのコースターとクリアファイルが欲しいすずさんは、ランダムで特典が付いてくるココアを死ぬほど飲んでいるが現状全く巡り合えていない、と。
何となく事態を把握した俺はため息をついた。
「……どれ頼めばいいの?」
「このココアは絶対でしょ、あとこのパフェと食事も一品頼んでね!」
「はいはい」
「ご、ご面倒をおかけしております……」
ハイテンションの葵に言われるがまま注文した俺に、すずさんは非常に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
いやまあ紛らわしいメッセージを送ってきやがった葵には若干怒りを覚えてはいるが、鈴さんは何も悪くないので気にするなという意味を込めて手を振る。
それにしてもコラボカフェなんて初めて来た。特別な装飾が施された店内を見渡す。狐面の女の子や白衣姿の少年など多数のキャラクターのイラストがそこかしこに飾られており、そこかしこで推しが来ただの来ないだの燥ぐ声が聞こえる。
「で、これ何のアニメなの?」
「え!?遥モンテ知らないの!?」
「知らん」
目の前に並べられたケーキに手を付けながら問う。このケーキも一人三個は食べなきゃいけないらしい。中々鬼畜な条件だなと思いながらチョコケーキを口に運ぶと葵とすずさんが驚愕の表情を浮かべた。
「に、日5……日曜夕方5時からやっているアニメなんですが……」
「あんまりテレビ見ないからなぁ」
「あのねあのねあのねこれねモンスターテールっていうアニメなんだけど元々はラノベ作品でねモンスターに改造された女の子がこれから来る人間の勇者からモンスター達を守るってお話でねそれでね私の推しがその子なんだけど」
「オタク特有の早口やめろ。何言ってるかわかんねー」
耳に流し込まれる念仏のような説明にげんなりして迫る葵を押し返す。コイツじゃ話にならん。鼻息荒い葵ではなくすずさんに詳細を問うと苦笑いのすずさんが壁に貼られたイラストの一枚、スーツに狐面に日本刀という属性モリモリの女キャラを指さした。
「人間とモンスターが敵対する世界で、ひょんなことからモンスターに改造されちゃった元人間の女の子が、親善大使になって敵対する人間との和平を結ぶっていうお話なんです。あの子が主人公でして」
「わたしの推し!」
「へえ……。じゃあこれ全部モンスターか」
言われてみれば確かに下半身が蛇の女や二足歩行の虎など人間離れした容姿のキャラもいる。結構人気なのか、カフェの外には行列ができていた。
平らげたチョコケーキの皿をグッズを俺に見せびらかす葵の方に押しやり、続いてチーズケーキに手を出す。
「あのね、人間がモンスターを滅ぼすために勇者を送りつけてくるから対抗しよう!って話なんだけど、昨日の放送で遂にその勇者が出てきたんだよぉ!いやぁもうドキドキだよねぇ!」
「勇者ちゃん可愛いよねぇ。ビジュが良すぎる……」
「ね!ね!」
「ふーん」
キャッキャッと作品の感想を語る二人。いつも通りうるさい葵はともかく、いつも表情豊かだが今日は輪をかけてテンションが高そうなすずさんを珍しいと思いつつ、微笑ましい気分になるのだった。




