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64話

「それにしても、葵ちゃんのこの弱さはちょっと心配ですねぇ。可愛いから悪い男に引っ掛からないか心配です」


 面白……微笑ましいすずさんの過去のエピソードを掘り返し語らせ、仕返しとばかりに俺の昔の話も突かれ、と楽しい時間を過ごしている内にラストオーダーの時間になった。

 最後の酒を頼んだすずさんは、ふとテーブルに突っ伏して爆睡こいている葵の頭を撫でた。


「ああ……飲み慣れてないってのもありそうだけど。ペース早かったし。社会人になる前に特訓させないとなぁ」


「ですねぇ。自分の限界を見極めておくのは大事ですからね」


 非常に備蓄のある言葉に同意を示す。流石、酒醜態エピソードを多数お持ちの方だ。面構えが違う。内心でふざけているとすずさんが睨んできた。目ざとい。


 とはいえ彼女が言うことももっともである。酒は飲まなきゃ覚えない。沢山飲めば強くなる、なんて体育会系なことを言うつもりも押し付けるつもりもないが、しかし飲まなきゃ慣れないし限界を知っておかないと痛い目見るのは確かだ。

 学生の時分でやらかすならまだしも、社会人になってからの酒の失敗は目も当てられない。


 どうしたもんかな、と気持ちよさそうに寝る葵を眺める。俺の家族は普段から酒を嗜むのは父親くらいで、その父親もビールしか飲まないので実家には大して酒がない。先ほどビールを一口飲ませてみたが、非常に苦い顔して二度と口をつけようとしなかったから多分苦手だろう。きっと家では飲まないと思われる。


 となればやはり俺が特訓つけるしかないのだろうか。嫌だなぁ。


「……悪いんだけど、また付き合ってもらえる?すずさん」


 ほぼ無意識に口から出た言葉。あまりにも抵抗なくするりと出たものだから自分で自分に驚く。まさか自分から誘うような言葉を言うなんて。そんなに葵と二人で飲むのが嫌だったのか俺、いや嫌だけども。


 見ればすずさんはぱちりと目を瞬かせており、その様子に俺は慌てて言葉を続けた。


「いやあの、すずさん酒詳しいし葵も懐いてるから。それに酔っぱらった葵が暴走したら俺一人じゃ収拾付けられないような気もすると言うか、ええと」


 言い訳じみた内容しか出てこなくて焦っていると、すずさんはくすりと笑みを零した。


「はい、勿論。私なんかで良ければいつでも。どうせ家で毎日飲んでいますし」


「……助かる」


 何故か嬉しそうな彼女に、ほっとしたようなソワソワと落ち着かないような気分を覚える。何となくそれを抱え続けているのが嫌で、俺は無理矢理話題をここ最近共にプレイしているゲームの内容にシフトさせた。葵に負けず劣らずのゲーマーであるすずさんは目を輝かせて話に乗ってくれる。


 ふと、バイブレーション音が耳に入った。しかしポケットに入れた自らのスマホのものでは無い。楽し気に次の大型アップデートへの思いを馳せるすずさんに声を掛ける。


「スマホ鳴ってない?すずさんの?」


「え?わ、本当だ!こんな時間に誰ぇ……?」


 仕事の電話じゃないといいんですけど、と言いながらカバンからスマホを取り出すすずさん。


 酔いのせいか、若干下がった目じりでスマホ画面を確認した彼女は───その目の温度を極寒まで下げた。


 侮蔑すら浮かぶその見たことの無い冷たい表情に、思わず息を呑んだ俺は誰からの連絡だったのかと尋ねることもできずに口を噤んだのだった。



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