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62話

「……嘘だろ」


「わあ……正直フラグ立ててるなぁとは思っていましたが、ここまでとは」


 あらら、と自らの肩に寄りかかって間抜け面を晒す葵を支えるすずさん。その正面で俺はどうしようもない妹に頭を抱えていた。


 葵の内定祝いという名目の飲み会が開始してから一時間が経った。案の定というべきか、驚くべきハイペースでグラス交換を重ねるすずさんの横で何故か得意げな顔でカクテルを飲んでいた葵は、まさかの2杯半でダウンした。


 顔を真っ赤にして「うぃ~」と謎の奇声を上げる酒雑魚。開幕当初のあの自信は本当に何だったんだよ。


「ごめんすずさん。場所変わる」


「平気ですよ。葵ちゃん軽いし、いい匂いですから」


 匂いは関係ない気がするが。しかし本当にすずさんは気にしていない様子で追加の酒を注文し始める。


「はるかくんは次どうしますか?」


「あー……じゃあハイボールで」


 はぁい、と返事をして去っていく店員の背中を見送る。何杯目かなんて細かく数えてはいないが軽く10杯は飲んでいるであろうすずさんは、葵と対照的にけろっとした様子で唐揚げを旨そうに頬張っている。


 にしてもこの人ずっと食ってるな。もっもっと頬張る姿がリスのようで可愛い、なんて成人女性に対して抱くにしては失礼な思考を打ち消しながら口を開く。


「そうだろうなとは思ってたけど、強いな」


「はるかくんこそ。さっきの謙遜はなんだったんです?」


「すずさんに比べたら本当に大したことないと思うんだけど」


 焼酎以外何でも飲むすずさんのペースに合わせてたら今頃絶対に酔ってる。妹を連れて帰らなくてはいけない手前、泥酔する訳にはいかないのでそんな真似はしないけども。若干恐れも含んだ視線を向けると、彼女はむっと唇を尖らせた。


「なんですかその目は。今日はちょっと調子がいいだけですよ」


「ああ、うん、そうですか」


「信じてませんね?」


 ええ勿論、という内心は笑顔で隠す。すずさんは弄ると面白い反応が返ってくるのでついつい意地の悪いことを言ってしまう。顔見知りでしかない女性にこんなこと思うのは間違いだとは自分でも思うが。

 

 そしてゲームを一緒にする前までは表情だけで遺憾の意を示すだけだったのに、ここ最近は棘のある突っ込みを入れてきたりするのだ。それがまた面白くて繰り返してしまう。


 いい歳した男が歳下の女性相手に何してるんだか。しかし何だかんだと掛け合いに付き合ってくれる彼女との会話は楽しくてしょうがない。まるで取り繕わない彼女との時間は気疲れしなくて済む。


「あ、はるかくん。日本酒ありますよ。飲みませんか?」


「いいよ。おすすめは?」


「この中なら獺祭か八海山が好きですね……。ええ待って越乃寒梅あるじゃないですか!悩むぅ……」


「じゃあそれ全部一合ずつ頼む?」


 日本酒専用メニューを前にうんうん唸り始めるすずさんにそんな助け舟を出すと、彼女はぱっと嬉しそうに顔を上げた。


 言葉よりも雄弁に語るその様子に本当に酒が好きなんだな、と噴き出しそうになりながら俺は呼び出した店員に彼女が挙げた日本酒と御猪口、そして日本酒に合いそうな刺身の盛り合わせを注文した。




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