五十五話
お互いの年齢を知って、そして呼び名が変わったとしても、全てが目まぐるしかった学生時代と違い人間関係が希薄になりがちな大人となった今、そんな事で日常に大きな変化など起きやしない。
───と、昨日までは思っていたんですけど。
「すずさん」
「お、わ……こ、こんばんは」
「どうも」
恐る恐るコンビニにやってきた私に、出入り口付近でスマホを弄っていたはるかくんが声を掛けた。
美形の微笑みにドキンコッと心臓を打ち鳴らしながらなんとかいつもの挨拶を口にする。
「はい、これ。遅くなりましたがあの時は助けていただいてありがとうございました。葵と選んだから多分美味しいと思う」
「おわわ……あ、ありがとうございます。……本当にそんな大層なことしてないのに頂いちゃっていいんでしょうか……」
「大層なことでしょ。強盗犯を説得して犯行を食い止めたんだから」
「………そういう言い方されると大層な事した気になりますね。じゃあ遠慮なく」
言葉が上手いはるかくんに乗せられて紙袋を受け取る。うわ、これ有名店の高級おつまみじゃん。大事に食べよ。
しげしげと紙袋を眺める私の頭上に、吹き出し笑いのような音が落ちてきた。見れば、はるかくんが何故か私を見てくすくすと笑っていた。
「え、な、なんです?」
「なんでも。……すずさん買い物しなくていいの?酒買わないといけないんじゃない?」
「いや別に買わなきゃいけない訳では……いや買わなきゃダメですね。一日が締まらないので」
「わあ、依存症っぽい発言。体壊さないでくれよ」
「……………善処します」
はるかくんと共にコンビニに入る。
というかこの男、ちゃっかり私が何買ってるか確認しておる……。酒浸りとか思われてそうだな、と今更であろうけど改めて考えると恥ずかしいような気持ちを抱きつつも、しかしやめられないお酒を冷蔵庫から取り出すと、ひょいっと手から缶が消えた。
「あ?」
「お礼の一環と言うことで、今日は俺が奢りましょう」
「は!?」
「あと何買う?このシークワーサー味の酎ハイ最近テレビでやってるやつだな。入れとこ。あとこのレモンサワーとハイボールと、あ、この梅サワーどう?」
「ちょちょちょ!?はるかくん!?何してるんです!?」
容赦無くカゴに次々とお酒をぶち込んでいくはるかくんにギョッと目を剥く。制止しようとするも体で巧みにガードされて叶わない。
「すずさんビールだけはいっつも買わないよね。苦手?」
「いやよく見てんな本当……っ!ビールはそこまで得意じゃないので飲み会の最初の一杯でしか飲みませんっ!」
「へえ、意外だな。酒ならなんでも好きなのかと」
「私をなんだと思ってるんです?」
こんなもんでいい?とカゴの中を見せてくるはるかくんに胡乱げな眼差しを向ける。しかし何を勘違いしたのか、彼は半笑いで更に追加のお酒を入れようとし始めたので大慌てで止めた。
「もういい!もういいです!!」
「今のはまだ足りねーよの顔じゃないの?」
「んな訳ないでしょ!!何日分ですかこれ!」
「おつまみは?どれがいい?」
「もういいです!!!」
ただでさえ高級おつまみもらってんだ、これ以上お金使われてたまるか。おつまみコーナーに行こうとするはるかくんの体を必死に押し留める。
数分の格闘の末、ぜえはあと肩で息をしながらもなんとか私は彼をレジの並ばせることに成功したのだった。
……なんだこれ。友達みたいじゃんか。
そんな気持ちは彼にバレないよう、コッソリ飲み込んだ。




