48話
茹だるような暑さに死にそうになりながら、妹と共に駅前のアイスクリーム屋へと向かう。
「お前さぁ……そろそろ兄離れしろよ。三日にいっぺん来てんじゃねーか」
「勘違いしないでよね、お兄に会いに来てるんじゃなくて鈴ちゃん目当てでこっち来てるだけなんだから!」
「バカか……?」
ほぼ毎日一緒にゲームしてんだろうが。あわよくばリアルでも会えないかなって待ち伏せするな。迷惑だろ。
ちなみに平日なら大体20時くらいにコンビニ行けば会える可能性が高いのだが、教えればその時間に張り込みそうなので絶対に教えない。
暑さを物ともせずに元気にるんるん歩く妹に、7歳の格差を見せつけられているかのような気分を覚える。
「それにあのこともあるしね?」
「……もう3年だぞ。いい加減終わったろ」
「だといいけどね~」
冗談めかした風に笑う葵。ただその目は全く笑っていない。それどころか若干怒りすら滲んでいるようにすら思える。
未だにあの件を忘れていない葵の取り繕う様子に口を噤んだ。
葵が俺に異常なまでに纏わりつくようになったのはあの一件からだ。
妹なりに不甲斐ない兄を心配してくれているのだろうが、むしろその気遣いが苦しく思う時がある。
7歳も離れた妹に守られているなんて情けない。妹の私生活を犠牲にしている気がしてならない。
もう平気だからお前はお前の生活に戻れ。───そう自分から言えない自分もいて、それが尚の事情けなくて。
「……お姉さんのこと好きな。お前」
苦し紛れに話題を戻す。
恐怖症とまでは言わないが、特定の存在に過剰なまでに警戒を覚えてしまう俺の影った心のスペースの中に、いつの間にか小さいながらも確固たる場所を獲得していたその人。
生命の危機を救われたという感謝ゆえか、共に命の危機を乗り越えたという勝手な仲間意識か、それともあの人自身の人柄か。
まるで気負わずに話しかけられる存在に、今まで知り合った女性には覚えなかった感情……というか、感慨のようなものを覚えているのは事実だった。
「鈴ちゃんめっちゃ面白いんだもん。特に酔っ払った鈴ちゃんね。見たことある?」
「無い。え?お前あんの?」
「見たことはないけど、よくボイチャで話すよ。いいでしょ」
にしし、と笑う生意気な妹に口の端が引き攣る。羨ましかろうと表情で問われ何となくイラつき、その額にチョップを落とした。
「んああいったああい!!鼻潰れたぁ!!何すんのクソ兄貴!!」
「大袈裟。はよ行くぞ、あっちい」
「フジョシボーコー!最低最悪鬼悪魔!バカおに……あれ?」
ぎゃあぎゃあと喚く妹を無視してスタスタ歩く。腕に噛みつかんばかりにキレる葵だったが、ふと雑踏の中に目を向け首を傾げた。
「鈴ちゃん?」
「え?」
葵の言葉に足が止まる。
ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねて雑踏の向こうを見ようとする葵の代わりに視線の先を追う。
そこには確かにフラフラと人混みの中を歩くお姉さんがいた。
「……本当だ。……なんか顔色悪い……?」
「ね!?そうだよね!?もしかして熱中症になってるとかじゃ無いよね……?行くよお兄!」
「あ!?ちょ待てお前……っ!」
ドラッグストアへと入っていくお姉さんの後を、葵は焦燥感を滲ませた顔でついていく。ぐいぐいと腕を引っ張られ俺もその後を追いかけるのだった。




