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38話

 近所にパン屋ができた。まだ行ったことは無いが。


 いつもいくコンビニを通り越して5分ほど歩いた所に開店したその店は、どうやら閉店こそ早いものの、朝は結構早くから営業しているらしい。


 なんで行ったこともないパン屋の営業時間にそんな詳しいかといえば。


「滅茶苦茶いい匂いしますね」


「そうでしょう!?あ、おはようございます」


「どうも」


 少々変則的な挨拶をお姉さんと交わす。休日の早朝にコンビニに現れた彼女の手には香ばしい匂いを漂わせる可愛らしいパッケージの手提げ袋が。


「やっぱりあそこのパン屋さん美味しいです。お兄さんも是非行ってください。塩パンがおすすめですよ」


「まあ、はい。その内」


 何故詳しいか。それは早くも常連になりつつあるらしいお姉さんに布教されているからであった。


 目を爛々と輝かせいかにあのパン屋のパンが美味いかを語るお姉さんに相槌を打ちながらカフェラテを手に取る。


 聞けば週に二度は行っているらしい。俺としてはパンに思いを馳せるその顔を見るだけでお腹いっぱいであるのだが。


 にしても酒ではなく牛乳に手を伸ばす彼女が持つ袋はだいぶ重量がありそうだ。まさかとは思うが、と俺は浮かんだ疑問を口にする。


「それ全部朝食うんですか?」


「……………」


 気まずげに視線を逸らされる。この人……健康診断乗り切ったからってはっちゃけすぎではなかろうか。


 ごにょごにょと「バーガー系は昼に食べますし……」と小さく言い訳するお姉さん。いやまあ顔見知りでしか無い女性の食生活に口を出す権利は俺にはないのだけれども、でもそれでも思う。糖質取りすぎだろ。


 流石に口にしたら失礼なので言わない。が、しかしお姉さんは俺の視線に含まれる感情を正しく察したらしい。

 うぐぐ、と唸った彼女はおもむろに手提げ袋の中に手を突っ込んだ。


「お兄さん」


「はい?って、うわ?」


「受け取りましたね?それで共犯ですから」


 悪い顔でにひっと笑い、お姉さんはそのままパタパタとレジへと向かって行った。……俺の手に小さな紙袋に包まれたパンを握らせて。


「……はあ、はい。後日感想お伝えします」





ちなみに、いただいたクロワッサンは非常に美味であった。今度俺も買いに行こう。





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