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32話

 俺は非常に悩んでいた。


「……ん、うん……………ん?」


 見つけてしまったのだ。プリンターの前で何やら小さく唸るお姉さんを。


 またコンテンツプリントガチャでもしてるのかと思ったのだが、どうやら今日はそうではないらしい。眉根を寄せた難しい顔で携帯とプリンターの画面を交互に見比べている。


 明らかに困っている様子だ。声をかけるべきだろうか。まあ一応顔見知りな訳だし。

 でもなあ、と逡巡していると、困った顔をしたお姉さんとバッチリ目が合ってしまった。


 途端、ぱあっと顔を輝かせるお姉さん。しかしハッと我に帰り慌てて澄ました顔を作っては控えめにペコリと会釈をするに止められる。


……それで誤魔化したつもりなのだろうか。観念した俺は吹き出しそうになるのを堪えながらお姉さんに歩み寄った。


「どうしました?」


「え、あ、わ、いやあの、別に……」


「滅茶苦茶困ってませんでした?」


「…………」


 ぐぅ、と唸るお姉さん。素直すぎる。なんでもそつなくこなしそうなイメージがあったが、どうやら彼女にもできないことがあるらしい。

 チラッと俺を見上げた彼女は、やがて諦めたようにため息をつき、おずおずとプリンターの操作画面を指差した。


「……チケットの発券がうまくいきませんで」


「代金は支払い済みですか?」


「はい、クレカで。……ガイドによると、この画面が出るはずなんですが」


 どれ、と差し出された画面を覗き込む。確かにガイド画面には「チケット発見」の項目があり、そこをタップすると書いてあるが、目の前のプリンターの操作画面には写真関係のことしか無い。

 

 ふむ、と頷いてもう一度プリント操作画面を眺める。……ん?写真関係のことだけ?


 オロオロとするお姉さんの前で、もしやと思った俺は操作画面の右上にある「トップに戻る」を押してみる。

 すると画面が切り替わり、写真以外のメニュー項目も出てきた。お目当ての「チケット発券」の項目も現れる。


「どうやらカメラプリントアウトの画面になってただけみたいです……ね……」


 思いの外早く解決できたことにほっと胸を撫で下ろしお姉さんを見下ろす。さぞ喜ぶと思ったのも束の間、お姉さんの顔を見た俺は固まった。


 頰を僅かに赤く染め、口をモゴモゴとさせ、プルプルと震えている。

 うん、この表情見たことある。間違いを指摘した時に妹が良くするわ。


 つまり今彼女が覚えてる感情を一言で表すと───羞恥、である。


「……あ、りがとう、ございます」


 消え入りそうな声でお礼を言われる。こんな簡単なことで、思っているのだろう。


 とんでもないです、と口にしながら俺は可愛いその様子に湧き上がる悪戯心を抑えきれず、つい口にしてしまった。


「……ちなみに何のチケットなんですか?」

 

「……っ!!」


 羞恥を顔に滲ませたまま顔を上げるお姉さん。言うか言わまいべきかたっぷり逡巡した後、くうっと何かを堪えるような顔をした彼女はポツリと呟いた。


「……鬼強ラーメン祭り2025……です……」



 うん。そういうの好きそうね、貴方。




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