二十一話
推しの歌声はいつだって私に安寧を与えてくれる。
イヤホンから流れる神曲を鼻で歌いながら夜道を歩く。いやぁ深夜と自転車乗ってる時って気持ちが大きくなるよね。誰も聞いていないだろうと思うと歌っちゃうあの心理、多分世界共通よな。
本当であれば明日も仕事なので寝た方がいいというのは分かっている。
しかしながらこの本日リリースされた推しのオリジナル曲を聴いたら激ってしまったのだから仕方あるまい。興奮が治るまでひとりお菓子パーティと洒落込もう。
そう思い立った私はラフ着のままいつものコンビニに訪れた。そしてご機嫌でカゴを手に取ろうとする。
しかしいつもと違う雰囲気と刺す様な視線を感じ、緩んだ顔のまま目線を上げた。
強盗、おる。
最近入ったばかりの外国人店員さんと、店員さんにナイフを向ける目出し帽スタイルの強盗。
そして強盗の近くで両手をアップするおじさんといつも会う兄ちゃん。
全員が全員間抜け面で入店した私を見ていて、ビシリと体が硬直した。
あーえっと、うん、あれだ、うん、そのー……これとりあえず抵抗の意思はない事を示した方がいいな?
目の前に広がる光景を見ていやに冷静な思考でそう結論づける。
えーとりあえずイヤホン外しまして、そんで強盗を刺激しない様無手を示す様に両手上げまして。
よし逃げよう。
顔を強盗に向けたまますすす、と後退する。
兄ちゃんごめんね、強く生きてね。もう助かったつもりで兄ちゃんに激励を送るが、まあ当然の如くそうは問屋が卸さなかった。
「オイコラァッ!!何逃げようとしてんだァ!?殺すぞアマ!!」
「でっ!ですよねっ!?」
やっぱダメだよね!!いやそりゃそうだよごめんなさいっ!
ナイフを向けられて怒鳴られた私はびっくんと跳ねた後、慌てて兄ちゃんの隣に並んだ。
どどどどどうする!?っていうかいやもうバカ!なんで外にいる時に店の異変に気づかなかったのバカ!!外から通報すればなんとかなったかもしれないのに!!
ようやくテンションが場にそぐわしいものになる。こみ上げる恐怖に震えながらチラリと兄ちゃんを見上げると、彼もなんでやねんと言わんばかりに片手で顔を覆っていた。
いやもう本当にごめんっ!




