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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コトリバコの使い方 五

作者: 柴犬

イラストを元に小説を作る。


面白いですが物凄く難しいですね。



 “コトリバコ”。



 外見は唯の寄せ木細工の箱だ。

 呪詛の対象とされた人物が手に取ると、死に至ると言われる呪殺の箱。


 そんな都市伝説が存在する。



 この世には……。






 ――許さない。




 ――許さない。





 その人物にとって僕と出会ったの偶然だった。

 そう。

 ただの偶然。


「絶対許さない」

 

 但し僕にとっては必然だったのだが。


 眼前に少年がいた。

 憎悪一色に染まった目をした少年が。


 


 僕が日課の散歩をしていた時のことだった。

 冬の寒さの厳しさが和らぎ始め、少しばかり暖かくなりはじめた今日この頃。


 当てもなくブラブラとしていた時のことだ。

 とはいえ何かが起こる予感はあった。


 それが僕の特技と言ってもいい。

 というか特性というべきか。

 うん。

 憎悪を持つ者に惹かれ、引き寄せられるという特性だ。


 住人の居ない家から僕は外に出て道路に出る。

 まあ本当はいるんだけどね。

 赤いテーブルの炬燵の住人など知らんわ。

 物言わぬ炬燵の住人など。

 近いうちにあの家を出るか~~。

 まあ~~頃合いだろう。


 ブウウ~~。


 カスッ。

 

 道路に出た僕に気づかずに近所の車が僕を掠める。

 ヤバい。

 ヤバい。

 運転手が僕に気がつかない事を忘れていた。


「危ないな~~」


 普通なら車を止めるなりして色々有るんだけどね~~。

 そのまま知らん顔で国道に出る車。

 運転手は四十代の男性。

 青のワゴン。

 確か買って三年目だっけ?

 家族構成は……え~~と?

 元同居人の女性が言ってたな~~。

 盗み聞きした時に言ってたな~~。

 元というか。

 今は元ですら無いんだが。

 今はい……あ~~なくなったな。

 いろいろ有って。

 炬燵の住人でいいだろう。

 というか~~そろそろ別の家に移らないとイケんね~~。

 でもな~~僕自身の願いだけじゃ勝手に動けんし。

 いや正確に言えば移動するだけなら出来るんよ。

 でも僕が勝手に『住居を変える』事は許されない。

 『誰かの願いで』という理由が満たせていない僕という存在は消えていく。

 うん。

 因みに還る所は僕の前いた所だ。

 意識が無いときの事なんで覚えていないので、詳しい場所は分からんけど。

 まあ~~いいか。

 その場所と僕の関係なんか。

 今の僕には存在理由なんてない。

 既に男の願いは叶えられたから、僕があそこに居座る理由はもうないからだ。

 願いを叶えた僕が言うのも何だけど。

 ああ。

 次の相手を探さないと。

 国道に出て左に曲がる。

 テクテクと歩く。

 いい天気だ。

 次の居着く場所を探さないと。

 早く決めないと警察が動くと煩くなるんだよね。

 多分、後数日中にはそうなるのかな?


「カラオケ行こうぜ~~」

「良いね~~臨時収入も有った事だし」

「いこいこ」


 三人の髪を染め学生服を着崩した少年たちが燥いでいた。

 今は平日の御昼なんだけどね~~。

 見た目からして不良みたいだしサボりかな?

 筆記用具が入らない位薄く潰した学生カバンを脇に抱えてるし。

 まあ~~良いか。

 僕に気が付いてないみたいだし。

 道の端に移動して彼らをやり過ごす。



「シロ。 早くお買物に行こうね~~」


 ワンワン。


 正面から犬を連れたオバサンが歩いてくる。


 ワンワン。

 

 僕を見て犬が吠える吠える。

 

「どうしたのシロ。 急に吠えだして?」


 オバサンが困惑してるが知ったことでは無い。

 げっ。

 犬だよ。

 犬。

 しかも柴犬。

 犬は苦手なんだよ。

 昔から。

 というか僕と同族は皆苦手だろうな。

 犬は。

 正確に僕達を見つけて吠えるし。

 かまれんように少し離れて通り過ぎるか。

 

 ワンワン。


「どうしたのシロ?」


 テクテクと移動する僕から目を離さずに吠える続ける柴犬。

 うわ~~僕がオバサンに近づかんよう、距離を取っているだけなのに吠えるなよ。

 正確に僕だけを見続けて。


「おかしいわシロ」


 クウ~~ン。


 尻尾と耳を垂れオバサンに甘える柴犬。

 どうやら安心したみたいだ。

 僕がオバサンからある程度離れたから。

 犬って本当に勘が良くて嫌いだ。


 まあ~~良いけど。

 さて……目的の『憎悪を持つ者』を探そうか。

 それだけが今日の僕の散歩の理由だ。

 互いに求め巡り合う事で僕の『終わりの始まり』という存在理由は満たせる。

 居た。

 そこに居た。

 

 その少年はそこに居た。

 橋の上に。


 憎悪に目を濁らせた少年が。

 学生服を着ているという事は未成年だろう。

 良く見なくても学生服は泥だらけ。

 手や顔に青あざが見える。

 喧嘩でもしたのか思ったけど違うな。

 背中に違う足跡が複数有るし~~。

 ズボンのお尻には噛んだガムがベタリと付けられた跡がある。

 髪は様々な場所から引っ張られ、乱れに乱れた跡が残っている。

 『虐め』だな。

 何より橋の下の川にカバンが打ち捨てられ沈んでいる。

 学生カバン。

 明らかに眼前の少年の物だろう。


「糞、糞、あいつらっ!」


 涙を流し悔しがり怒りで震えている姿。

 様子を見るにまだ心だけは折れてないみたいだ。


「カツアゲだけならまだ良いが」


 よくないだろう。お金は大事だぞ。

 

「弟にまで手を出して」


 ほう?

 僕はその言葉に目を細める。


「その話。良ければもう少し詳しく聞かせてくれないかな? 少年」

「ひっ! あ……あんた何処から現れたっ!?」

「其処は今はいいから」


 突然現れた僕に驚愕の声を上げ、たじろく少年。

 顔を引きつらせながらもポツポツと話し始めてくれた。

 普通は会ったばかりの怪しいやつにトラブル関係の。

 ましてや『苛め』など話すものは居ないだろう。

 まあ~~彼の心境の変化など僕には関係ないか。

 『恨みつらみを話さずにはいられない』これも僕の持つ特性だ。


「ふむ」


 話の内容はありふれた内容だった。

 クラスの不良に不運にも目を付けられ始まった『苛め』。

 それが次第にエスカレートして行きお金を取られるまでに。

 虐めの事実を知った自分を助けようとして弟が暴行を受けたとか。


「ほうほう~~学校の方には相談しなかったのですか?」

「あいつ等は政治家や警察に理事長の息子で、校長や教頭や先生達は見てみぬふりだ!」

「他に被害者は」

「何人も。 全員不登校になるか転校していった」

「被害者の親御さんは?」

「泣き寝入りだよ」

「君は何故登校拒否も転校もしないので?」

「転校したくても母子家庭にそんな金なんてないし」

「そうですか」

「サンドバック代わりが登校拒否でもしたら家に火をつけて燃やすとあいつらが……」


 ああ。

 いい。

 いい憎しみだ。

 ゾクゾクする。


「最後に他の生徒たちは貴方たちを助けようとはしないのですか?」

「見て見ぬふりだけど」


 本心みたいだ。

 嘘は付いてない。

 僕の特性上分かる。

 

 人の恨み妬み憎しみ。

 殺意に。

 非力な者が憎悪する者を殺す武器として作られた僕にはわかる。


 決まりだな。

 僕はニタア~~と嗤う。


「ならば此れを差し上げます」


 その時の僕の顔はどう少年に映っただろう?

 鏡に映らない僕には想像が出来ない。

 だからその恐れ慄く姿で想像するしかない。

 だけどだ。

 どんなに恐れていてもだ。

 この少年は僕を使う。


 憎悪に心を支配された者は皆同じだからだ。



 遠くでパトカーのサイレンの音がする。

 それは僕が先程までいた家に急行していた。

 誰かが炬燵を赤い血で染めた住人を発見して通報したんだろう。

 予想より早い展開に僕はため息をついた。


 


 挿絵(By みてみん)



 三月。




 桜舞い散る。


 


 風が吹いた。


 強い風が。

 

 その途端視界に一面に広がるピンク。

 

 白身を帯びた花びらが僕の周囲を舞う。

 街道をゆく僕についてくる桜の花ビラ。

 正確に言えば『僕を持った少年』にだが。


 僕という人の形をした呪い。

 その呪いの本体。


 外見は唯の寄せ木細工の箱だ。

 呪いたい相手が手に取ると死に至る呪殺の箱。


 そんな都市伝説が存在する。

 この世界には。


 その呪いの箱が僕の本体だ。



 眼前で青春を謳歌する為に入学する子供たち。

 行きかう少年と少女らは此れからの未来に希望で胸を膨らませていた。


 但し五分後。 この学園は阿鼻叫喚地獄と化す。

 少年を虐めていた不良達の机には僕の分身があるからだ。

 手に取ったが最後、込められた呪詛は不良達を狂わせ多くの殺人が行われる。

 不良達によって引き起こされる凄惨な事件は『権力者に揉み消される事なく』人々の記憶に留まり続ける事になるだろう。



 

 

3月19日誤字報告ありがとうございます。(ガチ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 惨劇の前の、綺麗な風景。
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