ep.7 人であること
「着きましたよ〜〜!!!!!!」
大声でゲラゲラ笑いながら車を停めるショコラさん。
「えぇ、薔薇と戦うよりあんたの所にこの子置いてく方が嫌なんだけど、、、テンション、キショ」
「しょーがね〜でしょ、だって黒薔薇ですよ。しかももう5分咲き!これ刈れたら今月のNo.1は私で決まりなんですから。血も逆流する程テンション上がりますよ」
「ゲッ。あなた達のチームやっぱり討伐に関して何か賭け事なりゲームなりしてるでしょ。悪趣味〜、赤のチームにちくるわよ」
「あ〜〜〜〜、、、あそこは男女共にうるさいんで勘弁してくださいよぉ。あいつらは本当にキンキン声でうるさい」
「それが嫌なら今日だけでも大人しくこの子を守ってあげてね!わかる?あなたは前線に出るんじゃなくてこの子の護衛!」
「わ〜〜〜〜てぇますよっ。女王の仰せのままにぃ〜」
やれやれといった態度でショコラさんは気怠げにしている。
「もう、、、。人柄はともかくこの子は強いっちゃ強いのと、チェシャ猫達の中でも比較的まともだからこの子の指示に従ってね。危ないことはしちゃダメよ。今日あなたは現場を見に来ただけ!それだけ!いい?」
白の女王は真っ直ぐ私の目を見て話す。吸い込まれそうな美しい瞳の中に真剣さが入り混じりここはもう戦場なのだと感じさせられる。
「迷惑はかけません。白の女王と白ウサギさんの無事を祈っています。」
「ありがとう!じゃあよろしくねショコラ!安全な場所から私の勇姿をこの子に見せてあげてね!」
「お気をつけて〜!!!女王様〜!!!!」
早く行けと言わんばかりにショコラさんは手をぶんぶん振ってバイバイを促している。
大きな医療キットを携えて白衣の女王は足早に駆けて行った。どうか無事でいてほしい。
私もわがままを言ってついてきたのだからそれ相応の学びをここで得なければと拳を強く握る。
正直この人と会話は出来るのだろうか?心配ではある。でもその前にショコラさんの足を引っ張らないようにしなきゃ!、、、
「あの!!!今日はよろしくお願いします!!!」
大きな声を出しすぎないように、でもゴニョゴニョしないよう精一杯気遣いながら挨拶をする。
「戦闘経験があろうが無かろうが、現場で使えるか使えないかは関係ない。新人がしなきゃいけない絶対のルールなぁぁ〜〜〜〜〜んだぁぁぁぁ?」
空に向かって大口を開けながら喋った後に首を真横に曲げて質問をしてくるショコラさん。
ハイになり過ぎた男の人と2人っきりなのが怖くて顔が引き攣る。
(絶対今の私ブサイクな表情してるんだろうな、、、)
「どんな現場でも逃げずに責任を持って向き合うですか?」
恐る恐る答える私の声は小さかった。いつしか私は意気地なしの弱気な声に戻っていた。
「ぶっぶっ〜〜〜〜!!!!!!大外れ〜!!外れすぎて圏外だよ。その答え〜〜〜」
ここは舞台なの?って思うくらいハイテンションのショコラさんに私は戸惑うと共に白の女王を見失うのでは?と焦る気持ちが出てくる
「死なない!とか仲間を見捨てないとかですか?」
「それも素敵だね、でもそれはまた別のお話ぃ〜」
「自分1人で背負わないとか、、、?」
「あ〜!素敵だね、それもねぇ〜!女王とかはよく言うよねあの人優しいもんねぇ〜〜〜!!!でも僕の答えじゃない」
「答えはなんですか?」
この答えが見えない質問に私は困惑してつい早口になってしまう。
「自分で考えなきゃって言いたい所だけど、僕はそういう台詞を吐く奴が嫌いだ。大嫌い。だからスッ〜っと答えを教えちゃう!!!特別だよ〜〜〜〜答えは〜」
「人間でいること」
「え、、、?」
音になっていないような小さな声が出る。人間でいること?それってもしかして、薔薇が人になるように人も薔薇になるってこと?
「もしかして、人間も薔薇にな「ならないよ〜」
「じゃあ、人間であることってなんですか?」
「この仕事に慣れれば慣れるほど強い力と心を身につける。己が強くなり戦場に出れば出るほど普通の人間の心を忘れてしまう。そうしなきゃ身体より心が先に壊れてしまうからね。」
今私の前で話すショコラさんはもうニタニタ笑っていたあの目ではない。綺麗なヘーゼル色の目が真剣に私を見ている。
「生きるも死ぬも当たり前に起こるこの組織。昨日まで元気だった仲間が血まみれで帰ってくる。さっきまで喋ってた仲間が物言わぬ亡骸になって帰ってくる。明日遊ぶ約束していた仲間の明日が来ない。そんなことばっかりだ。仲間は失われ、救えなければ僕達が被害者の命を背負い遺族に届け謝り、そして恨まれる。」
相槌を打つことも出来ずにただ静かに話を聞く
「それを繰り返す内に心の動きは鈍くなる。悲しいことが起きてもキリがないから涙すら出なくなる。しょうがないと切り替えばかりが上手くなる。だんだんと心を忘れる。そうしないと僕達の心は死んでしまうから。でも、でもね、僕達は生きていたいから戦うし護るんだ。薔薇として?獣として?何として生きていたいか?そんなの決まってる。人間として生まれて人間として生きていたいんだ。」
なぜだか説明は出来ないが、出会ったばかりのこの人が相当な辛いものを背負ってると理解して私まで悲しくなる。少し涙目になってしまう。
「だからね新人の間だけでも人間の心を忘れないでいてほしいんだ。悲しくて泣いて、楽しくて笑って、腹が立って怒る。自分の心に鈍くならず人間でいてほしい。それを見る度に先輩の僕たちは人の心を思い出すから。」
「はぃ、、、、、、わかりました。」
涙目になっているのを見られたくなくて少し俯いて返事をする私
「護るのは僕たち先輩の仕事。ルーキーがルーキーのまま伸び伸び育てるように頑張るのが良い先輩だよ!それが僕!!!!!!!」
いつしかあのイかれた喋り方をしなくなって普通に喋るショコラさん。
「もしかして、気を遣って話し方変えてくれてますか?」
「個性より、後輩の心の安心の方が大事でしょ!!!でもテンション上がったら戻るから気にするな!大丈夫!まぁ、とりあえず場慣れしていこうぜルーキーィィィィ!!!!!!!」
両手を広げて速足で駆けていくショコラさんを一生懸命に追いかける私。
優しい人なのに、特徴だけみて怖がって失礼だったな。この人を信じて着いていこう。そう思いながらスーツのネクタイを整えてまた走り出した。