ep.6 正義も大義もないただの保身
私は私の代わりに戦っている白ウサギさんを助けたい。力になりたい。
心の奥底の本心を言えば知らない世界で味方を失いたくない。そんな思いで救護に向かうことを志望した。恐怖はあれど私は自分が死んでもかまわないとふと思ってしまった。
なぜなら今ここで死ねばもしかしたら目を覚まして夢から覚めるかもしれないから。ここは現実なのか異世界なのかはわからない。それでもなんとなく夢を見ている気はしていた。
夢なら早く覚めてくれ
「移動手段は馬車だとオシャレよね〜!!!」
キラキラした瞳で話す白の女王。彼女と私が乗っているのは黒色の乗用車だ。現在私たちは白ウサギの援護に駆けつけている最中。私は女王が用意してくれた黒色のスーツを着ている。現場に向かうんだと緊張し始めた頃、朗らかに雑談をする女王。女王の声は緊張を和らげてくれるから有難い。
「馬より速いですよ。車は〜」
ニコニコというより、ニタニタと笑う運転手。この人はチェシャ猫部隊という所の一員らしい。
「馬車の方がお姫様気分になれるじゃない〜!私はやっぱり憧れなの!お姫様が」
うっとりとした表情で話す女王は既に御伽話のお姫様みたいに美しく綺麗で華がある。
「そう言えばチームリーダーの方以外の皆さんはなんてお呼びすればいいんですか?」
私はふと疑問に思ったことを質問してみる。
「ああ!そこに気がつくとはあなたは賢いわぁ〜!偉い子ちゃん!ううんとね〜、チーム名に+で本名以外の名詞が入ることになっているの!例えばね、私のチームだったら、女王ミントとか女王イルカとかそんな感じ!」
「俺はチェシャ猫さんとこの班なのでチェシャ猫のショコラオレンジです。オレンジでもショコラでも結構ですよぉ~」
揶揄うようにニヤっと笑うショコラオレンジさんは多分、普通に笑えばイケメンだ。
「そう!もうね、みんな適当だから書類作り以外はチーム名なんか飛ばしちゃってるわ!それにチーム内で被っていなければ他チームと名前が被ってる人もいるくらいなのよ〜」
「オレンジもショコラもよく被るので新人に揶揄い甲斐がありますよぉ〜まぁ、伝わればいいでしょう〜」
独特な語尾の伸ばし方の後にフハハと笑う運転手
「なるほど、、、なら私も好きな物の名前にしようかな、、、何にしよう」
「可愛いからなんでも似合うわ〜」
「おっと、目的地まであと20分切りました。そろそろ心のご準備を、ルーキー。」
そうだ!和やかな空気で忘れかけてしまうが、私達はいま戦場に向かっている。しかも相手はあの禍々しくて恐ろしい人型の薔薇だ。
私は初めて薔薇を見た時の恐ろしさを思い出し、胃がきゅうきゅう音を立て始めた。
ただここで引き返す訳にはいかない。だって、今あの薔薇と戦ってるのは私を助けてくれた人だから。しかも1人で立ち向かっている。私も役に立たなきゃ!
「ねぇ、そんなに思い詰めないで。」
白の女王は綺麗なまつ毛をゆっくりと閉じて私の手に手を重ねてきた。
「あなたは戦闘員ではなく、後方支援のドーマウス部隊を希望している。それはきっと今までに武道をはじめ力を使うことや喧嘩も経験したことないからでしょう?」
「はい、、、私は普通に平凡に平和な場所で生きてきました。剣道や柔道の経験もありません、、、」
「それなのに今、白ウサギを助けに行くのは申し訳なさからでしょう?でも彼はあなたの代わりに傷ついている訳ではないから自分を責めなくていいの。薔薇から人々を護るのが私たちの仕事なんだから、あなたを護ったのも当たり前のことなの。負い目を感じて危険な場所に行くことないわ、現場について怖かったらショコラと一緒に待機しててね」
違うんです、、、ごめんなさい。私、そんな純粋な気持ちで来ていないんです。正義感もちっぽけです。でも見方を失いたくないからなんて本心を言ったら嫌われちゃうかも
「いえ、あの、無理していません。迷惑かもしれませんがお願いします。連れて行ってください、、、」
「そう、なら私が先に進むからショコラと離れないでついてきてね」
「ショコラさんは待機ではないんですか?」
こういうのって運転してくれる人は待機するもんだと思っていたから意外だな
「ショコラさんは強いから現場に出てもだいじょ〜ぶっなんでぇ〜〜〜す」
語尾を伸ばしながらハンドルから両手を離す
「ちょっとショコラ!このままじゃ現場着く前に怪我しちゃうわ!それに女の子も乗ってるんだから紳士に運転しなさい!!!」
「あ〜はいはいはいはいはいぃ〜女王の仰せのままに安全運転で行きますわぁ〜〜〜」
この人!?さっきも独特な喋り方だったけどどんどんキャラ変わってない???
思わず顔が強張る
「ごめんねぇ、怖いよね。チェシャ猫部隊はね、運転や移動に特化していてすごくありがたい反面。好戦的な性格が多いから待機命令守らずにどんどん前に出ちゃう目立ちたがり屋なの、、、。多分、部隊内で誰が1番討伐したかとか競ってるのよ!!野蛮だわ!」
「競う必要ないですよ〜〜〜だって俺が断トツで1番なんでぇ」
「ここの舞台は全員自分が1番強いと思ってるから気にしないで!多分現場が近づいてきてテンション上がってるの。怖いよね〜!でも誰が1番かはさておき強いのは確かで周りもちゃんと見えてるから安心してね」
「安心しろよぉぉぉ〜」
大義も正義もない。ちっぽけなプライドと保身、そして役に立たないのを承知で役に立ちたいと現場に向かう迷惑な存在の私。
その私を、一度も否定しなかった白の女王とイかれた運転手。
せめて今後の為に現場を学ぶぞと私は意気込んで到着を待つ