ep.3 異世界じゃないかもしれない
「あの黒い薔薇が人になったのは夢じゃなかったんだ」
ポツリと呟く言葉を2人は逃さなかった。
「やっっっべぇ!!!!!!!もう人型になってんのかよしかも黒!!!」
白うさぎと呼ばれた男は頭をガシガシとかく。
「あなたは救護活動を優先したのだから気に病むことはありません。が、被害が出る前に対処を」
「へぇへぇお気遣いありがとうございます。じゃあ行ってくるわ」
私の言葉を聞いても疑問を持つ素振りがない2人。
「あの、信じてくれるんですか?薔薇が人になったこと。私の妄想かもしれないって疑わないんですか?」
ずっと私の手を握ってくれていた白の女王は私の手の甲に手をそっと重ね直す。
「薔薇はね、人を喰らうの。私達はそれを防ぐために日々戦っているの。だからねあなたが見たものを否定する人間はここにはいないのよ。大丈夫、教えてくれてありがとうね」
(薔薇が人を喰らう?アニメや映画の話じゃなくて?)
まるでお伽話や架空の世界のような話に私は思考が停止しかける。でもこの人達が私を揶揄っているようには見えない。それにさっきの恐ろしい光景は確かに科学的に証明できるような出来事ではない。そんな何かとかもが理解できない状況を目の当たりにし、私はパニックになりかける。
「おう、詳しいことはもう少し落ち着いてからそいつに聞け、まああれだな お前の情報のおかげで直ぐに行動に移せる。助かった」
「待ってください!!!さっきの薔薇?人になる時ドロドロしてて禍々しくて恐ろしかったんです!それに人を食べるんですよね?じゃあ!あれを探しにいったらあなたが危ないじゃないですか!」
思わず大きな声が出る。先程の恐怖を覚えているからこそ必死に訴える私を見て目をぱちくりさせてる2人。
「たしかに危ないわね」クククと上品でいて悪戯っぽい顔で呟く白の女王。
「俺は強いからいいんだよ!!おい!女王!笑うんじゃねぇ!直ぐに片付けてきてやらぁ!」
ドスドスガニ股で出ていく彼。怒らせてしまったようだ。
「私達ね毎日自分が身を挺して戦わなきゃ。守らなきゃ!って気持ちで動いてるから人に心配されるのが新鮮で嬉しかったの。ましてやこの組織「アリス」の人間以外の人に心配されるなんて本当に嬉しい!白うさぎも心配されたのが照れ臭かっただけで本当は嬉しくてしょうがないはずだから心配しないで!」
彼女の言葉を聞いて少し安心した。だが薔薇が人を食べる?今だにその説明が受け入れられない。だってそんなの普通に考えたらありえない。もしかして私は元いた世界と違う世界にいる?
「私っ、、、あの、私のいた世界じゃ薔薇は人を食べません!!ここはどこなんですか!?病院で入院していたはずなのに目が覚めたら私、、、知らない場所にいて!私、元の世界に帰りたい。」
急に恐ろしくなった。薔薇が人を食べると聞いて、ここは私がいないはずの世界だ。いわゆる異世界に迷い込んだのだと本気で思った。
なんだか急がなきゃ帰れない気がした。
「まぁ!入院していたの?親御さんと病院はパニックじゃない!」
私と女王では気になるところが違うらしい。
「う〜〜〜ん、難しいわねぇ。アリス以外の人間のほとんどが薔薇が人を喰らうことは知らないの。だからその情報だけじゃあなたが異世界から来たって判断するのは難しいわ〜!疑ってる訳ではないんだけど普通に意識朦朧として病院から自主的に抜け出した可能性だってあるじゃない。だとしたら警察に行けばなんとか帰れるでしょ。でも、本当に異世界から来たのだとしたらそれを迂闊に人に話すのは危ない気もするからな〜」
(ええ!??薔薇が人を喰らうのは当たり前じゃないの!?)
確かに一般人は知らない世界なら異世界に迷い込んだのではなく無意識に病院から抜け出した可能性大だ!!!
そう思うと異世界から来ました!なんて言った自分が恥ずかしい。穴があったら入りたい!!!!!!!自分の馬鹿!!!死んでくれぇ!!!!!!!
恥ずかしさで汗がドバッと出る私の額を女王は綺麗な白いハンカチで拭ってくれる。
「どちらにせよ2、3日ここでゆっくりして行って。薔薇の狂気をみたのだからトラウマにならないように心のケアをしなきゃ。もし異世界から来て行き場がなかったらならここにずっといたらいいわ。アリスは万年人手不足だから戦闘員以外にも人が欲しいの」
もちろん、あなたが嫌じゃなきゃね!と付け足して微笑む女王。ここがどこかはわからないし、帰りたい気持ちは変わらないがとりあえず私にも居場所がある。それが嬉しくて嬉しくて泣いてしまった。