ep.2 白の女王
あなたは呼ばれたの。私が呼んだの。いいえ私が望んだの。
でも特別な訳じゃない。誰でも良かった、誰でも良かったの。
「やだ怖い、暗いよ、帰りたい、やめてッ!!!!!」
「っ!!!!!はぁはぁ」
恐ろしい夢を見た。ただただ暗い場所で誰かが話しかけてくる夢、なんて言っていたかは思い出せないがとにかく怖かった。
冷や汗を沢山かいて目を覚ました私は病院のベットじゃないことに気がついた。
「ここは..?」
「おう、目ぇ覚めたかここはアリス隊の医療室だ」
目の前に知らない男がいる。いや、正確には夢に出たはずの男が目の前に立っている。ということはさっきの出来事は現実?まだ私は帰れていない?そもそもここはどこ?あの禍々しい薔薇と人影は何だったの?
聞きたいことはたくさんあるのに口をパクパクさせるだけで声が出ない。
「あっ、あっあの、」
「あ〜〜〜!!いや、無理に喋ろうとしなくていい、とりあえず飲み物持ってきてお前が起きたこと医療チームに伝えてくるわ!ちょっと待ってろ」
たしかに喉がカラカラだ。私どのくらい眠っていたんだろう?早く帰らなくちゃ先生や家族が心配している。
「おはよう、具合はどう?
どこか痛かったり、変なところはある?」
クセがなくて飲みやすいからね、と温かい紅茶を手に持たせてくれながら話しかけてきたこの人は髪や肌、服装にまつ毛まで真っ白の美しい人だった。
「いっいただき、ます」
たどたどしく喋る私を優しく見つめるその眼差しはとても優しくて慈しみに満ちていて女神様がいるならきっとこの人のような姿をしているのだろうなと思った
「少しでも落ち着けた?」
「はい、ありがとうございます。あの、この紅茶美味しいです」
「それは良かった、お砂糖やミルクはまず喉を潤してからの方がいいと思って入れなかったの。だから甘さが欲しかったら言ってね」
「いえ、あの、大丈夫です、ありがとうございます。でも私もう帰らなきゃいけなくて」
「そうだ!あなた体調はどう?どこか痛めてたりしていない?」
「いえ、特にないです…」
あれ?私、2週間も熱でうなされて入院していたのにいつのまにか意識もはっきりしているし辛くない。
喉が渇いていたとはいえそれは飲み物を一杯飲むだけで満たされる程度の渇き。脱水状態でもない。
2週間前とは打って変わって健康体である。なぜ急に?
「私はここで怪我人や病人の手当て等を担当しているの〜!みんなには白の女王と呼ばれているわ。そう、だからあのね人並みに手当は出来るから体調が悪ければ教えてほしいの。
あなたが着ているのは病院服でしょ?どこか悪いの?」
「いえ、、、あの、私、高熱が出て入院していたんです。入院していたのに、気がついたらさっきの人に怒鳴られて、でも逃げろって言われて動けなくて、あの、そしたら運ばれて、そしたらそしたら、、、、、、」
ここまで話してハッとする。「私はずっと病院にいたのに急に違う場所にいる。」というだけでもにわかには信じ難いことを言っているのに薔薇が人になったなんて言ったら正気を疑われてしまう。あれは熱でうなされた妄想?でもそれにしてはリアルなおどろおどろしさがあった。どのみち私の話はあまりにも不思議めいていて信じてもらえないだろうな。
私の話は信じてもらえない。そう思った瞬間、悲しくて寂しくてただ家族の元に帰りたくて涙が溢れてきた。
「大丈夫、大丈夫よ。無理に話さなくていいの、急がなくていいの。だって私はあなたの側にちゃんといるからね、怖い思いをしたんだね。大丈夫よ」
そう言って私の手にそっと手を重ねて落ち着かせてくれる女神のような見た目のこの人は性格まで女神だった。安心できて心地よい。この人だったら信じてくれるかもしれない。
「あのっ「そいつ大丈夫そうか?」
私の声はさっきの男によってかき消されてしまった。
「白うさぎ!あなたこの子を怒鳴ったらしいじゃない。こんなに怯えちゃって可哀想に」
「はぁ?さっきのはしょうがねぇだろ緊急だったんだし」
そういえば、彼は何んであんな剣幕で怒鳴っていたんだろう。何から逃げていたの?あの場に危険なもの…..もしかしてあの薔薇?
「薔薇の気配がしてたんだよ、もうすぐそこまで来てるのにこいつが芽を出しそうな位置に座ってるからどかしたんだ!!!そりゃあ、ちょっと手荒かったかもしれないけど直ぐに戦闘体制を取るためには丁寧に扱ってたら時間がないくらい緊急だったんだよ!」
薔薇?この人薔薇って言った?じゃあ私が見たものは幻覚なんかじゃない。真実なのかもしれない。
「あの黒い薔薇が人になったのは夢じゃなかったんだ」