ep.11 藍色マントの男
「無事か?ルーキーィ~?」
白を抱きかかえたショコラさんが私の所まで来て小声で囁く。彼の腕の中にいる白の腹部は真っ赤に染まっていて一瞬呼吸が止まる。自分の上着を折りたたみ枕にしてそこに白を寝かし、片手で白が怪我している腹部にそっとハンカチを添えている。守っているのだろう。そんなショコラさんは私に小声で優しく声をかける
「だいじょ~~~ぶ、ここに戻る間に白の坊には薔薇の血清を打ってあるからさぁぁ。まあ薔薇の効果も一時的なものだし腹怪の出血がひどいから一刻も早く治療をした方がいいのはたしかなんだが、とりあえず一命はとりとめているよぉ。」
「白、助かるんですか?」
薔薇の血清とは?薔薇は敵なんじゃないの?なんでそれを打つと安心なの?薬?沢山聞きたいことはあった。でもやっと振り出した白の安否を問う私の声はとても小さかった。それでもショコラさんはきちんと聞いてくれていて返事をしてくれる。
「あの時ルーキーの判断が早かったおかげで俺は動けたぁ。いわば君のおかげだなぁ」
ショコラさんの言葉に視界がにじむ。
私は目に涙をためていることに気づかれたくなくてうつむく。
「そんな。私はなにも、、、救ったのはショコラさんですからっ」
「ほら」
白のお腹に手を添えている手とは反対の手で私に綺麗なハンカチを出してくれた。きっと慰めてくれているんだろう。
「ありがとうございます。大丈夫です」
「何もみていないから」
ショコラさんは白を見守るように俯きながら話している。紳士だなぁ。と感心し差し出された手をこれ以上無下に扱うのも失礼だと思いお礼を言いながらハンカチを受け取る
「ありがとうございます。洗って返しますね」
「そこまでしなくていいよ。仲間を思いこみ上げたた君の涙は綺麗だからなぁぁぁ?ちなみに懸命に戦い立ち向かった坊やの血も綺麗だから気にしない」
白に添えてあげているハンカチが赤く染まっている。本当に奇麗なのはこの人の心なんだろうな。涙をふき私は改めて女王の方を見る。少しでも戦場というのがどういうものなのかをこの目で見て覚えて次に生かせるようにする。それが私がいまできる最善の努力だと思ったからだ。
「あれ」
戦況は素人目に見ても女王が有利に見えた。片手で黒薔薇を掴みもう片手は薔薇の肩辺りを刺しているように見えた。何より血がすごい。女王を前に成すすべがないのか黒薔薇のキンキン声の怒号だけがきこえる。女王が有利だ。このまま行ったら勝てるだろう。なのになんだか落ち着かない。女王に向けて気を付けてと叫びたくてたまらない。泣きそうになるほど不安で心がいっぱいになる。違和感だ先ほどからみていたあの戦場にさっきはなかった違和感があるんだ。よく見て考えろ、違和感の正体を探し出せ。あった。
「あそこの空間に誰もいないのに人影がある、、、?」
そう一言呟いた瞬間、全身に鳥肌がたった。本能で分かった私が影に気が付いたことで敵意がこちらに向いたのだ。
キィィィィィィン
頭上ですさまじい音の金属音が響いた。と同時に女王の叫ぶ声が聞こえた
「ショコラァァァァァ!!!!!!!」
「おっと気づかれたか。これに反応できるなんて君は動きがいいね美しい」
「いいやぁ?それは買いかぶりすぎだなぁ?新人のおチビちゃんが人影に気が付かなきゃ今頃俺はお前さんに切られていたぜぇ」
キャハハと笑うショコラさんの声で私はハッと意識を取り戻す。恐怖でぼーっとしてちゃいけない!!いまの私にできることはただ一つ。白を守ることだ。これ以上一ミリたりとも白には怪我をしてほしくない、させてはいけない。私が守るんだ!!!
私は横たわる白を抱きかかえるように上から覆いかぶさる。特に頭と腹部はなんとしてでも守らなきゃ
「なんと身のこなし美しいだけでなく心まで美しいのか。そうかそうか、君の美しさに惚れた私と一曲死ぬまで踊ってくれませんか?」
「踊りぃぃぃ?あ~いいネッ!!それ!たとえ生首落ちても踊り続けようぜぇ~?じんっっせい燃やして愛し合おうなぁぁぁぁ??????」
2人の会話が頭上で繰り広げられる。しかし刃物がぶつかるような音は一向にやまない。激しい金属音の中で震えていると
「どこか怪我している場所はある?」
顔を上げるとそこには血まみれの女王が真っすぐこちらを見つめていた。女王は勝ったのだ。しかし安心はしていられない。戦いは終わっていないのだ
「白が腹部を刺され出血をしています。ショコラさんがここに運んでくる間に薔薇の血清を打ったと言っていました。一時的な効果だがとりあえず一命はとりとめたと教えてくれました。この会話から私の体感で3分ほど経っています。」
伝えられるだけの情報を話すと女王は少し目を細め教えてくれてありがとうと言いあなたは怪我してない?と私に質問をする。ありません。と言うと少し安堵した表情をして白の方にも視線を移した。
「ショコラ!!変わるから二人を安全な場所へ!!!」
「駄目ですよぉぉぉじょ~お~!!今こいつに熱いラブコールをもらったんでぇぇぇぇ!俺がこいつを殺しまぁぁぁぁぁす。それが愛に応える最高の方法でしょ~~~~~~!」
「ショコラ!こいつはすでに満開の幹部クラスのはず!!!いいから変わりなさい!」
白を守ったままショコラさんを見ると白銀の髪をしたスーツ姿の男と戦っているのが見えた。銀の剣のような武器の相手にショコラさんは小さな鍵のようなもので応戦している。
先ほど幹部クラスと女王が言っていたことを思い出した。相当強いんだろうな。
「そんなに僕との踊りを大事にしてくれるなんて照れてしまうね。君と目が合うだけで胸が高鳴ってしまうよ。君が死んだら必ずキスしてあげるからね。永遠を誓おう」
黒薔薇を一人で倒した女王を前にしてもこの余裕の態度。動くたびに高そうな藍色のマントが優雅に舞う。
ん?藍色?ってことは青の仲間だよね?私は黒薔薇が一番強いと思っていたけど
「青色の薔薇も強いんだ」
自分でも意図せず言葉が漏れていた。ただの感想。この戦いの中で何の意味も持たないはずの私の言葉にこの場の空気、時間がピタッと止まったのを感じる。
「いまなんと?」
その言葉とともにすさまじい爆風が私めがけて吹いた。とっさに白を抱きしめた私は踏ん張れずに白を抱えたまま尻もちをつく形で後ろに吹き飛ばされる。
恐らく突風が吹いたのではない。ショコラさんと戦っていた薔薇が私めがけて蔓を振り落としてきたのだ。それに女王とショコラさんが気が付き守ってくれた。強大な力がぶつかり合い私は吹き飛ばされた。
「お~~~っとこれすら防ぐのかい」
藍色マントの白銀男は片腕がちぎれても平然としていた。
「ルーキー!!怪我は?」
冷静さを取り戻した口調のショコラさんが問いかけてくる。
腕に抱きかかえた白を見ると上半身がかすかに上下していて目は覚まさないものの呼吸ができていることが伺える。腹部の傷も開いてなさそうだ。
「白も私も無事です!!!!!!」
「よぉぉぉぉぉぉし上出来だ!!!いまの聞いたろ?だから落ち着け女王様」
「あら。私は冷静よ。二人を頼むわね」
「、、、、、、、、、、、、女王の仰せのままに」
女王との会話を終えショコラさんはこちらにやってくるなり坊やとルーキーはここから離れよう。そういいながらショコラさんは白を抱きかかえる。
「本当は二人抱えてやりたいが坊やの傷口が開かないためにも姫抱きのまま安静に運びたい。ルーキー走れるか?」
「はい!」
「いい返事だ、さあついておいで!!女王様がブチ切れている。ここから離れるぞ!!!」
続く




