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負けるが勝ち

 女の趣味がわるいやつはダチの趣味もわるい。この一番の例があーくんで、やつは女子みたいなキレーな顔をしているくせに、すっげえブスを好きになる。しかもこのブスときたら、性格も暗くてジメジメとしていて、なにひとついいところがない。

 で、あーくんはいっつもブスに振られる。

「ごめんちって言われたんだけど、ごめんちの元ネタって何?」

 靴箱……中学になってからは下駄箱と呼んでいるスペースの脇にある傘立てがぼくたちの作戦基地および椅子だった。偶然にも下駄箱の近くで活動している卓球部が終わってから、他の部を見送ったあとでべらべらべらべらと暗くなるまで話すのだった。ふつう、男はそう喋らないもの、というか、おしゃべりというのは女の領分みたいな空気があるんだけれど、ぼくもあーくんも、まあ喋るわ喋るわで、昼休みはいつも教室から追い出される。

「ごめんちの元ネタは知らんけど、まあむしろよかったんじゃね」

「フラれて良いパターンなんてあるかぁ」

「負けるが勝ちって言葉もあるじゃんじゃん」

「あのね、恋は負けたら終わりなの。次の恋はないの。バッドエンデュなの」

 でも先月もブスに恋して、告って、フラれたじゃん。夜が終わらなくなりそうだから言わない。

「では、ではだね。フラれて楽しいと考えてみてはどうだよ」

「どうだよってなんだよ。俺の顔をみろ! こんなに落ちこんでるのに楽しいわけないだろ!」

 あーくんの顔を見る。給食のデザートがプリンだったときと変わらない表情だ。

「だけどもし、君の告白が受け入れられたとするだろ」

「超ハッピー! たのしい!」

「そうしたらまず、君は性格のわるいブスと付きあうことになる」

「未来の彼女を侮辱するな」

「次に、おまえの彼女ブブブブブースとみんなにバカにされる」

「未来の彼女を!」

「最後に、デートに精一杯でぼくとこうやってだらだらと話せる機会がなくなる」

 あーくんは「み」と言いかけて、「ミーンミーン」とセミの真似をしはじめた。

「女の子と付きあって、最初はうれしくても、だんだんとぼくとの会話を思いだすよ。ああ、楽しい敗北、いや、楽しかった敗北だった。そして君は砂になって……」

「なんで俺が砂になるん?!」

 べしべしべしべし、あーくんはセミをやめて人間に戻り、ぼくの背中をリズミカルに叩いた。

「そんなに俺と話すのが楽しいんなら、今回のところは負けを認めてやってもいいかな!」

 こんなバカと友達だなんて、そんなバカを女に取られたくないと躍起になるなんて、女の趣味がわるいやつはダチの趣味もわるい。

お題:楽しかった敗北 制限時間:30分

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