俺とあいつと缶コーヒー
ガラス越しにいつも見ていた。
向こうは俺に気づいてなんかいない。
なのに...俺はこの思いが不毛に終わるとわかっているのに、居住まいを正して、俺を選んで欲しいとできるだけ印象に残るように相手を真正面から見つめる。
でも、やっぱり気づいてもらえない。
なぜなんだろう。
なんであの子は俺を気になってはくれないんだ?
俺は自分で言うのもなんだが、こう見えてもわりと見目が良いほうだと思う。
色素が薄くて薄茶色でどちらかと言うと色白だ。たまに寄ってくる女子たちにも可愛い系と好評なんだ。
だけど、だけどな。俺が毎日俺を選べよと思っている相手は、どうやら濃い系のやつが好きらしい。
知っているんだ。たしかにかっこいいよ。いつも黒づくめの格好でさ。俺にはそんな格好は似合わない。そしてやつは刺激的らしい。俺は刺激なんてない。優しいよね、マイルドだよねと周りに言われてしまう。それに全体的に薄茶色のイメージなのか、白っぽい格好のほうが似合う。
俺じゃダメなのかな。
はぁ、とため息をつくと冷たい空気に目の前のガラスが曇った。
パタン。
視線を落としたと同時に目の前のガラス扉が開いた。
え、まさか。
「喉乾いたなぁ」と声が間近で聞こえる。
顔を上げると俺をじっと見つめる大きな瞳。
目があった!!
気づいてくれた?
喉が渇いた?だったら俺があげるから。
なんだってあげるよ。俺があげられるもの全て。
そう思って見つめあっていると、あの子の指先がそっと俺の頬に触れた。
俺を......選んでくれるのか?
差し伸べられた指先にドキンと胸が高鳴る。
「あ〜〜、紅茶もいいけど、やっぱりコーヒーかな。
テスト前だし。」
「わかるー!カフェイン!カフェイン!頑張ってテスト乗り切ろーぜ!」
さっきまで目の前にあった指先は、ひょいと隣にある黒いボディのアイツを選んだ。
パタン。
大学のコンビニって、コーヒーばっかり売れるよね......。
無常にも閉められた冷蔵庫のガラス扉の中で、ロイヤルミルクティと白いボディに書かれた俺は、缶コーヒーをレジに持っていく相手を見ながら「いつか俺も」と、今日も遠い目をしながら切なく切なく佇んでいる。
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