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英雄の暇つぶし

 辺境の村『モズ』。領主様よりドラゴン退治を命じられた新堂伝馬の赴任地である。

 モズは山麓にある小さな村で、その山頂はドラゴンの生息地である。

 そのため、ときどきドラゴンが降りてきて、家畜や人を襲う。今年は特に被害が酷いため、伝馬がドラゴン駆除チームの一人として送り込まれたのだ。


 (ここは楽園だ……ドラゴンさえいなければ……)


 暖かい日差しの中、草むらに寝転がり、爽やかな空気と花の匂いを嗅ぎながら伝馬は思った。

 ドラゴン退治のためだけに派遣されたため、ドラゴンが出なければ基本的に暇なのだ。暇過ぎるときさえある。のほほんと日光浴を楽しむのも暇つぶしの一つだ。


 (ヨウムの村もそうだったけど、ここは自然が多くて、逆に人は少なくて、みんな優しくて……ハクトウの街とは全然違うなぁ……)


 伝馬はあの一件があったせいか、無意識ではあるが都会嫌いになっていた。都会は鬱陶しいほど人が溢れ返っている。その上、心落ち着くような自然は少ない。


 (都会の人間と来たら、ほとんどが情も無く、忙しなく、自分本位で人を見下し、やけにカリカリしていてちょっとのことで喧嘩するような連中ばかりだ……)


 と、伝馬は思いこんでしまっている。それだけ都会での一件が、嫌な思い出として心に刻まれてしまっているのだろう。

 その反動もあって、街とは真逆である田舎のモズが素晴らしく思えるのかもしれなかった。

 伝馬が一人、暇を満喫していると、


 「ブルット・フルエール、何してるの?」


 ブルット……もとい伝馬を呼ぶ声。領主トルムニアとの謁見の日以来、伝馬はこの偽名で過ごしてきた。

 伝馬は声で誰かは分かっていたが、閉じていた目を薄く開けて一応確認した。

 シオンだ。伝馬の頭のすぐ上に立っている。


 「日向ぼっこ」


 再び目を閉じながら伝馬が言った。


 「隣いい?」


 「どうぞ」


 シオンは伝馬の隣でごろりと寝転がった。


 「この間は凄い活躍だったんだってね。なんでも飛んでるドラゴンに、ぴょーんって跳んでったんだって? 凄いね」


 「全部シオンのおかげだよ」


 「ふふっ、ボクに感謝してよね」


 えへへと笑うシオン。陽光をたくさん浴びた笑顔が、伝馬の目に眩しい。

 電マによる大跳躍は、伝馬が思いついたわけじゃない。シオンが持つ『伝説の魔剣』の古書からヒントを得たのだ。

 古書には『伝説の魔剣』の逸話が多くあり、そこには電マの新たな技となるヒントが曖昧かつ、詩的な表現として書かれている。

 正確な解読の難しいものがほとんどだが、伝馬はなんとか古書から多数の技を習得することができた。


 それはひとえにシオンの協力のおかげであり、シオンがいなければ、絶対に得られないものだった。

 古書を読むたびこうも思った、


 (やっぱり電マ(これ)って『伝説の魔剣』なんだろうか?)


 両者はあまりにも共通点が多い。電マが『伝説の魔剣』の技を使えることからして、両者を同一と考えてもいいのかもしれない。


 (う~ん、でもなぁ……)


 なんとなく、伝馬はイヤだった。なぜなら『伝説の魔剣』といには、あまりにも電マがダサいから。


 (『伝説の魔剣』ってフツーもっとかっこいいもんじゃない?)


 少年心を失っていない伝馬、どうしても電マを『伝説の魔剣』として受け入れたくなかった。

 未だ電マを『伝説の魔剣』と認めたくない伝馬の横で、


 「ふぅ~ん、意外と気持ちいいんだね~。なんていうの、なんか日光とか風とか植物の感じとか、気分が晴れやかになるんだね~」


 シオンは自然を満喫していた。


 「そうだねぇ」


 伝馬も同意する。


 「ボク、初めてなんだ、こういうの」


 「そうなんだ」


 「うん、街から出たの初めてだから。街にはあんまりこういうとこないでしょ?」


 「たしかに。あの街にこんな自然はどこにもなさそうだね」


 「ハクトウの街が嫌い?」


 「……どうして?」


 「なんだかそんなふうに聞こえたから」


 「……そんなことはないよ。あんまり知らないだけで」


 嘘だ。伝馬の優しさだ。ハクトウの街出身のシオンに、街が嫌いとははっきり言えなかった。

 シオンは伝馬の心を察したように苦笑を浮かべた。


 「街だって、いいところはあるんだよ。人は多いし、ほこりっぽいし、喧嘩もあったり警察騎士とか貴族がうるさかったりするけど、市場には色んな物があるし、色んな人にも会えるし、飽きが来ないよ」


 「たしかに、暇をすることはなさそうだね」


 ここで会話が止まってしまった。伝馬の言葉が皮肉に聞こえたのかもしれない。もちろん伝馬にそんな意図はなかったのだが、街に対する心象の悪さが、言葉に現れていると見えなくもない。

 若干の気まずさを感じながらも、伝馬は引き続き日向ぼっこを楽しんでいた。自然の恵が、そんな些細なことを忘れさせた。


 そんな伝馬にシオンはそっと近づき、身をぴったりと寄せると、


 「ねぇ、テンマ……」


 伝馬の耳に小声で囁いた。囁きに振り向くと、シオンの顔が目の前にあった。息のかかる距離。伝馬は身を仰け反らして距離を保とうとしたが、それより早くシオンの手が伸びて、伝馬の肩を掴んだ。


 「急にどうしたの? あと伝馬って呼ぶのはまずいんじゃなかったっけ?」


 我らが伝馬、女性とゼロ距離になってもうろたえない。この鈍感とも言うべき冷静さは姉たちとの激しいスキンシップで培われた。


 「誰もいないからヘーキだよ。ねぇ、テンマぁ、この意味、わ・か・る……?」


 吐息をたっぷり含んだ囁き。突然の艶。


 誘惑をしてくるあたり何か目論見があるのだろうが、やり方もあまり上手くないし、相手も悪い。スキンシップは姉に揉まれ百戦錬磨、しかし色ごとに関しては超絶鈍感な伝馬相手では悪手である。


 「だれもいないときは本名で呼ぶってこと?」


 表情一つ変えずに伝馬は言った。すっとぼけているわけじゃない。超が付くほど鈍感なだけ。

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