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死にかけ伝馬と覚醒イジュ。そしてドラゴンは大爆発!

 ドラゴンの鋭い爪が、伝馬の背中を抉った。


 「あ゛う゛ッ――!」


 短く、苦痛に満ちた叫びが伝馬の口から迸った。凄まじい激痛。まるで巨大な焼きごてを押し付けられたような感覚。意識がトびかける。気合で意識を保つも、視界は急激に色を失ってゆく。


 (あ、これ、マジの、ヤバい、ヤツだ、あぁ……)


 イジュの目の前で、背からおびただしい血を流し、力なく崩れ落ちる伝馬。

 そんな状態でも、その手にしっかりと握られている電マ。もしこのまま死んだら、電マを握りしめたまま死んだ、世界初の人類になれるかもしれない。


 「テンマーーーーーッッ!!!!」


 泣き叫ぶイジュ。血みどろでぶっ倒れる電マ少年を見れば、きっと誰だって泣く。

 伝馬を仕留めたドラゴンは上昇へと転じ、再び空を上っていった。風が弱まった。イジュは伝馬に駆け寄った。

 近くで見れば見るほど、酷い出血だった。背中が大きくえぐられ、そこから色々と見えちゃマズいのがコンチチハしちゃってる。


 「テンマぁ、テンマぁ……!!」


 涙でぐちゃぐちゃになるイジュ。


 (イジュが、泣いてる……)


 イジュの泣き顔が伝馬を冷静にさせた。大怪我を負った自分より、泣いている幼い少女のほうが心配だ。


 「イジュは、大丈夫……?」


 「うん、イジュは平気……。でも、テンマ、テンマがぁ……!!」


 「僕は大丈夫……。これくらい……全然平気だよ……」


 とは言ったものの、


 (朦朧とする……思考が鈍い……耳鳴りもするし……背中の痛みを感じないのが、逆に末期的だ……。あ、思い出した。これ、あのときと同じだ……)


 夏の終わり、地面に転がっているセミと同レベルで死にかけだった。

 それでも伝馬は強がってみせる。


 「僕は後から行く……だからイジュ、君は、先に逃げるんだ……早く……」


 男の子の意地だ。意地でも、伝馬はイジュを心配させまいと気丈に振る舞う。

 薄れゆく意識の中で、


 (せめて、僕が囮になっている間、イジュが逃げてくれれば、僕の死も無駄じゃない。カッコもつくってもんさ……)


 カッコよく死ぬ自分を思い、またイジュを安心させるため、伝馬は笑った。

 ところが、


 「ううん、逃げない! 私がテンマを助ける!」


 「え゛……!」


 初めて伝馬に逆らうイジュ。半死体の伝馬を見ているうちに、胸の中で何かが芽生えた。

 死を覚悟し、末期の余韻に浸っていた伝馬、死に体とは思えない素っ頓狂な声を出した。

 イジュは涙を拭い、立ち上がった。その顔にはもう涙も弱気もない。引き結ばれた口唇が凛々しい。


 (イジュ……!?)


 イジュのこんな表情を伝馬は今まで見たことがない。ついさっきまで子供だと思っていたその顔が、急に大人びて見えた。


 「テンマ、じっとしててね」


 イジュは両手に杖を持ち、集中した。杖に魔力が集まってゆく。

 伝馬の目にもそれが見えた。蛍のような優しい緑の光が二人の周囲に満ち、杖へと流れ込んでいくのが。


 「リカバリー!」


 その言葉とともに、杖先に集まった光は大きな球形になった。それをイジュは伝馬へとかざした。光の球はゆっくりと伝馬へと落ち、伝馬を包み込んだ。

 すると、伝馬の背中の傷が、まるで映像を早送りように、どんどんふさがってゆく。


 「す、凄い……!」


 伝馬は気持ちよさげに感嘆の声を漏らした。背中に温かく心地よいものが流れ込んでくる。極上の温泉に入っているような気分。痛みはない。気分も良い。失われいった活力が、全身へと充填されてゆく。地獄から一気に天国。

 一転して死地を脱した伝馬。だが死の危険が去ったわけではない。死は再び、その巨大な翼に乗ってやってきた。

 ドラゴンだ。はるか上空から咆哮とともに急降下してきた。もちろん狙いは伝馬とイジュ。


 「イジュ、危ない……!」


 伝馬は立ち上がろうとした、が、立てない。傷は癒えたが完全ではない。

 そんな伝馬を、イジュが制した。


 「私に任せて!」


 余裕なのか、自信たっぷりにウインクするイジュ。かわいい。

 だからといって、幼い少女に「はいそうですか」と任せるわけにはいかない。伝馬は生まれたての子鹿のように四肢を震わせながらガクガクプルプルピクピクヒクヒク、なんとか立ち上がり、空を見上げると、


 「あ――」


 ドラゴンはもう目前。開かれた顎が大写し。鋭い牙が急接近。咀嚼まで数秒前。


 (電マ(こいつ)は間に合わない! 終わった! 結局死ぬのか――)


 と、伝馬が再び死を覚悟した瞬間、


 イジュは既に、迫りくるドラゴンに向け、杖をかざしていた。


 「フレイムバースト!」


 詠唱、放たれる火球、オレンジ色に輝く弾丸はドラゴンの鼻先へと吸い込まれた。

 そして、


 ドゴォォォオオオオオオオオオオオオオォォォォォォンンンンッッ!!!!!


 大閃光と大音響の大爆発。凄まじい威力に、


 (アカン、これ死ぬやつや……!)


 眼前が火炎に一色に染まり、またまた死を覚悟させられ忙しい伝馬。


 が、なんともなかった。目の前で大爆発が起こったにもかかわらず、伝馬にはなんの被害もなかった。

 大爆発が指向性なのか、それともイジュが魔術で守ってくれたのかはわからないが、とにかく無事で済んだ。

 無事といっても閃光が眩しかったのと、爆発音に耳が多少やられてしまってはいたが、これはご愛嬌。


 爆発による煙幕が晴れ、伝馬が辺りを見回すと、


 「う、うわぁ……」


 伝馬は引いた。引いてしまうほど、爆発の威力は凄まじかった。

 周囲はちょっとしたクレーターになってしまっていた。地面は、伝馬とイジュのいるところを除いて大きくえぐれ、辺りに生えていた草木は完全に吹っ飛んでしまっていた。


 (これが魔術の威力、か……)


 唖然呆然とする伝馬だった。

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