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第60話 ルアセンの森、迷い猫、キッシュ

「えっと……」


 流石に彼女では話して良い事と良くない事の切り分けは厳しいのか、ベラフィアへと視線を向けるリミューン。

 対するベラフィアは、ふむ、と一息つけた後、口を開いた。

 

「私達はルアセンの森のエルフです」


 ルアセンの森……国の南東に位置する森だったな。

 カーネリアからは相当遠い。

 移動するだけで1ヶ月はかかりそうだ。

 

「それはまた随分と遠くから。人探し、でしたよね?先程姫巫女とかなんとか」

「はい。私達の集落では巫女と呼ばれる森の精霊と会話を交わす役目の方がいらっしゃいます。姫巫女様はそのご息女になります」

「へぇ……なるほど。精霊と会話をしてどうするんですか?」

「森の精霊からのお言葉は私達の生活の指針となります。森の精霊からのお言葉をもとに、どの様にしていくのか、それを皆に伝えるのが巫女の役割になります」


 ほぉ……実質為政者に近い立ち位置に居るってことか。

 なんだか予想よりも遥かに重要な地位じゃないか。

 

「そんな人が居なくなったんじゃ大変ですね」

「えぇ……それも今回が初めてというわけでは無いのがまた」

「そうなんです!」


 俺とベラフィアの会話を聞いていただけのリミューンが急に立ち上がると声を荒げる。

 

「この間も、ちょっと20年くらい遊んでくるって書き置きだけ残して行方知らずになったと思ったら冒険者になられていたり、今回だって帰ってきたと思ったら、50年くらい遊んでくるって!10年20年ならまだしも50年ともなれば流石に心配なんですよ!」


 うーん……エルフの時間感覚、良くわからん。

 大体10倍くらいの寿命という話だから、人の10倍として考えればいいか。

 ……5年くらい結構普通じゃないか?

 いやいや、流石に王女……のような地位に居る人物が5年も居なくなったらまずいか。

 あれ、それ1年でもまずいんじゃないのか?

 なんか良くわからなくなってきたぞ。

 まぁ時間感覚の事はともかく、そんな事やってたのか……。

 

「今回という今回はちゃんと連れ戻しますから!じゃないとこんな遠くまで来た意味がないですし……ハッ!そうですよ!食事なんか取っている時間ないんですから!」


 そう言うや否や、席を立とうとするリミューンだったが、その肩を強く押さえつけるのが隣に座るベラフィアだ。


「まぁ落ち着きなさい、リミューン。姫巫女様とて食事を取らずに動けるわけでは無いし、それに……」


 勿体ぶるように言葉を途切れさせると、意味深にこちらへと視線を向けてくるベラフィア。


 まぁそうかな、とは思っていたが、やっぱり分かってるな、これ。


「案外、探し物って足元に落ちてたりするものなんですよ」


 ベラフィアの言葉を補うように俺が続けると、リミューンはよく分からないといった様子で俺とベラフィアとの間を視線が往復する。

 眉を潜めるリミューンを微笑ましく眺めていると、ガシガシと何度も脛を殴られる。

 そこは地味に痛いんでやめて欲しいとさっき言って……はいないか。

 やめろやめろと言わんばかりに殴られた足を軽くブンブン振り回してやると、それを避けるためなのかカタリと音が鳴る。


「おや、なにか小動物でも飼ってらっしゃるのですか?」


 その音にめざとく気づいた……というか、まぁ元々気づいているベラフィアが態とらしく問いかけてくる。


「いえ、特に飼っているわけではないのですが、先ほど猫が迷い混んできまして」

「猫ですか」

「さっきから俺の足に悪戯してくるのでちょっと払ったんですよ」

「それはそれは、随分とお転婆な猫のようですね」


 お互い白々しいにも程があるんだが、2名ほど今の状況を正確に把握できていない人物がいるので面白い。

 ベラフィアとかいうこの男、相当性格が悪い。


「猫ですか!?私、猫が好きなんですよ!ちょっと見せてもらってもいいですか?」


 猫と聞いて食いついてきたのは予想外にもリミューンだった。

 その言葉に、足元の猫が必死に俺のズボンの裾を引っ張ってくる。

 んー、どうしようかなぁ。

 カウンターの向こう側ではリミューンが今にもこちらを覗き込もうとしているのだが……もう少し粘るか。


 俺も人の事を言えない程度には性格が悪いんだよなぁ。


「もうすぐ料理ができますから、その後でいいんじゃないですか?」

「うーん……そうですね、そうします」


 まぁ食事前に猫に触れば毛だらけにもなるだろうしと提案したのが正解だったようだ。

 足元の猫もほっとした様子で裾を引っ張るのをやめてくれた。

 代わりに一度だけ脛を殴ってきたが。


「おまたせしました」


 丁度いいタイミングでマリーが料理を運んでくる。

 木製のトレイの上に陶器の深皿。

 そしてその中には黄色のモノがホカホカと湯気を上げている。

 二人の前にそれを並べると、二人して興味深そうに覗き込んだ。

 

「芋とアスパラガスのキッシュです。店のメニュー加える予定の試作品なので、お代は結構ですよ」

「ほう、キッシュというのですか」


 卵に牛乳を混ぜて焼き上げた料理。

 中には茹でた芋とアスパラガス、そしてチーズが入っている。

 聞いた話だと小麦を練った生地を器のようにして焼き上げる方法もあるという話だが、今回は陶器の深皿に具材を直接流し込んで焼き上げている。

 大きく焼いて切り分けるような出し方をするなら生地を器にしたほうがいいのかもしれないが、まぁ試作品だし色々とやってみようということで今回はこれだ。

 

「材料は卵と牛乳にチーズ、後は芋とアスパラガスで肉は入ってません」

「なるほど、たしかに丁度いい料理、ですね」


 マリーの説明にふむ、と納得したようにベラフィアが声を漏らす。

 焼き立ての卵のいい匂いを漂わせるそれにまず最初に手を付けたのはリミューンだ。

 恐る恐ると言った様子でスプーンで卵を掬い上げる。

 中でしっかりと溶けたチーズがとろりと溶け出し、みょーんと伸びるそれを慌ててすくい上げようとするもうまくいかないようで、諦めたのか直接口から迎えに行く。

 

「あっ、あふっ、ほっほっ」


 焼き立てのチーズがかなり熱かったのか、口を半開きにしてホフホフやり始めるリミューン。

 暫くの後ゴクリと喉を鳴らすと、ホゥ、と口の中の熱気を排出した。

 

「美味しいです!」

「それは良かった」


 一応は自分たちでも試食はしたが、やはりこのスタイルが一番いいかもしれない。

 焼き立てに勝るものは無いよなぁ。

 

「これは中々ですね。チーズの塩気が丁度いい」


 続けてベラフィアもキッシュを口にしつつ感想を述べる。

 そうなんだよ、チーズがいいんだこれは。

 なので余計焼き立てが美味いんだよなぁ。

 

「アスパラガスが美味しいです」

「これは日持ちがしないものだと認識していますが、この街で取れたものですか?」

「えぇ、案外この街は農作物が豊富なんですよ」


 肥沃で広大な平地が周りに広がっている事もあり、農作物の生産は非常に盛んなんだよな。

 種類も色々な物を作っているし、本当に有り難いことだ。

 

「本当に美味しいです!あ、でも……」


 熱いのにも慣れてきたのか、パクパクと続けて口に運ぶリミューンだったが、不意に表情が曇る。

 スプーンを一旦深皿へと下ろすと、それを追いかけるようにして視線を落とした。

 

「姫巫女様もちゃんとご飯召し上がっているでしょうか……」

「心配ですか?」

「10年ちょっとくらいでしたが冒険者として生活されていましたから、大丈夫だとは思うんです。でもやっぱり、心配になります」


 なんだ、いい子じゃないか。

 足先でツンツンと足元の猫をつついてやると、遠慮がちにトン、と脛を叩かれた。

 ふむ……。

 調理が終わったのでこちらに顔を出しているマリーの元へと歩みよると、耳元で一つ頼み事をする。

 それを聞き終わったマリーはコクリと小さく頷き、またカウンターの下へと一瞬だけ視線を向けてから厨房へと戻っていく。

 さて、ならばこちらはこちらでやることがあるな。

 

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