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第49話 諍い、予期された懸念、傲慢

 ここ最近、ギルガルトショックの関係でこうしてドアが勢いよく開けられる事があったが、どうやらそれとは別の様子。

 ギルガルト目当ての連中は往々にして真っ先に店内を見回し、そしてギルの姿が見えないことがわかるとガクリと肩を落とすのだが、その男は俺を視界に捉えるやジロリとこちらを睨みつける。

 

「まだ準備中なんですけど」


 まぁ自分の側には飯食ってる二人が居るのであまり説得力は無いが。

 

 ともかく、客の前での荒事は避けたい。

 こちらに向けて足を踏み出そうとする相手に先んじてこちらから近づいていく。

 

「食事に来たわけじゃないのはわかるだろうが」

「すみませんが、ここは冒険者の酒場なので。食事で無ければ依頼ですか?」

「俺が冒険者に見えるとでも?」

「見えないから俺も困っているんですよ」

「俺をバカにしているのか」

「いえいえ、滅相もない」


 と、いいつつ、正直ちょっと煽り気味だったことは否定しない。

 真っ向から負の感情をぶつけてくる相手に穏やかでいられるほど俺は聖人じゃないからな。

 

「クラウスさん、どうしましたか?」

「あぁ、大丈夫だ、心配いらない」


 厨房で俺達の昼食を作っていたマリーが料理の乗った皿を手にこちらへと顔を出す。

 今日の昼食は……あぁ、俺の作ったパンに昼に余った香草焼きを挟んだ奴か。

 昼食用に大きめのパンを作っておいたからそれを使ったんだな。

 

 マリーが出てきた事でそちらに視線を向けた男が、カッと目を見開くとツカツカとマリーの元へと歩き出す。

 あ、これはマリーが大丈夫じゃないな。

 

「それだ……そのパンだ!」


 そう言ってマリーの腕をつかもうとする手を、俺が逆に掴んでやる。

 

「女性への暴行は関心しないな」

「ちっ、離せ!」

「マリー、厨房に入っていてくれ」

「あ……はい、分かりました」

「くそっ、聞いてるのか!離せ!」


 これでも元冒険者。

 負傷した右手は子供程度の力しか出ないが、左手ならばその辺の男に振りほどかれるほどなまっちゃいない。

 マリーが厨房に戻ったのを確認して、男の手を放した。

 

「それで、あのパンがどうかしたのか?」


 俺の握っていた手首を痛そうに擦る男。

 ちょっと痣が残るかもしれないが、自業自得だと思ってもらおう。


「どうもこうもあるか!お前、俺らを通さずにパンを売っているな!」


 あぁ……なるほど。

 いつかはこうなる日も来るかもしれないとは思っていたが、それが今日か。

 俺は面識が無いが、この男、何処かのパン屋だな。

 

「確かに店に出してるが、あくまでそちらで買うパンのおまけだ」

「そんな屁理屈が通るか!いいか、お前は新参者だから知らないのかもしれんが、カーネリアでは必ずパン屋からパンを買うのが決まりなんだよ」

「勿論、知っている」

「だったら尚悪い!何故勝手にパンを売っているんだ!」

「いやだから、パン屋で買ったパンのおまけだって言ってるだろうが。俺の作ったパンの分は金は貰っていないし、そちらにもちゃんと金が落ちているはずだぞ」

「金の問題じゃ無い!決まりを守れと言っているんだ!」


 話せば話すほどに激高していく男。

 俺のパンが売れるということは一緒に出している黒パンも売れるということなのだから、パン屋としては別に悪くない話のはずだ。

 が、そういう話ではないらしい。

 全くもって面倒くさい。

 こういう手合には理論的な話をした所で通じるものではないからなぁ。

 

「決まりは守っている。店でパンを売る場合は必ずパン屋から買ったものでなくてはならない、だろう?俺のパンを売っている訳では無いんだ、問題はないはずだ」

「だから、そんな理屈が通るかって言ってるんだよ!お前の作ったパンを目当てに客が入っているんだから、それはもうパンを売っているのと同じことだろうが!」


 うーん……そっちの理屈の方が通らない気がするんだが、もはや理由なんてどうでもいいのかもしれない。

 そもそも、彼が何を目的にしているのかがはっきりしない。

 俺のパンを店に出すのを止めろ、という話ならばわかりやすいが、そうなればパン屋のパンだって売れ行きが悪くなる。

 それがわからないわけではないだろうに。

 ともかくこのままでは埒が明かないな。

 

「そちらの理屈はともかく、俺に何をして欲しいんだ?ただ文句を言いに来ただけじゃあるまい」

「フン、最初からそう言えばいいんだよ。いいか、お前のパンは店の看板メニューだろうから、売るなとは言わない。そこまで非情ではないからな。だがウチは通してもらう」

「……意味がわからないが?」

「ウチがお前のところにパンを卸してやるって言ってるんだ。だからお前のパンの作り方を教えろ」


 ……あぁ、そういうことか。

 自分がどれだけ無茶苦茶な要求をしているのか、気づいているのだろうか。

 いや、気づいていたら非情ではないなんて言葉が出てくるはずもない。

 

 うん、流石に、ちょっと、イラッとしてきた。

 

「ただで教えるとでも?」

「決まりを守るにはそうせざるを得ないだろう」


 なんというか、酷いもんだな、と。

 

 カーネリアのパン事情は正直最悪だと思っている。

 はっきり言ってまずい黒パンと、無駄に高い白パンしか売っていないということもあるのだが、何よりその黒パンを美味しくしようという意思が感じられない。

 それは不文律によってどんなパンであろうとも売れる事が保証されているが故の怠慢でしかない。

 カーネリアにパン屋がいくつあるのかは知らないが、少しでも気概のあるパン屋が一軒でもあればこうはならなかったのかもしれないが、人はぬるま湯に浸かるとそこから出られなくなるものだからな……。

 

 確かに、ここで相手にパンの作り方を教えてしまえば今後は大きな諍いになることも無いだろう。

 元々は偶然の産物である俺のパン、他の人に教えるのだって場合によっては吝かではない。

 が、少なくとも、それは今ではないし、こいつではない。

 

「断る」

「ならば走る子馬亭には今後一切パンは売らん」


 前言撤回しよう。

 酷いもんだ、程度ではない。

 最悪だ。

 ぬるま湯に浸かっているまでならばまだ許せる部分がわずかにもあったが、こうして権力を振りかざすようになるのは怠慢ではない、傲慢だ。

 

 思わずため息が出る。

 店でパンが出せないというのはかなり大きな欠点になる。

 が、マリーには悪いがこいつの言う通りになるのだけは我慢がならん。

 吐き出した息を大きく吸い込み、それを伝えようと口を開きかけたところで、その声は厨房の入り口から聞こえてきた。

 

「そんなパンなんてこちらからお断りです!」

「マリー?」


 厨房に入っていろと言ったのに、何故。


 ……いや、違うな。


 この話は俺だけの話ではない、走る子馬亭の話。

 当然、マリーだって言うべき事があるはずなんだ。

 

 全く……クラウゼン工房の時にしっかりと確認したではないか。

 マリーだけの店でも、俺だけの店でもないのだと。


 そのマリーが俺と同じ思いであったことに、正直、安堵している俺がいる。


「なっ、い、いいのか!?パンが店に出せなくなるのはあんたらだって困るだろう!?」

「構いません!そんな横暴な事を言うような方の作るパンなんかなくても、ウチは大丈夫ですからご心配なく!」


 きっぱりと言い放つマリーの圧力に男は思わずたじろいだようで、なにか反論をとパクパクと口を開くが言葉が出てこない。

 おいおい、なんでお前が慌ててるんだよ。

 まさか断られるなんて思ってなかったということか。

 つくづく権力にただ乗りしてるだけの奴というのは……。

 

 ともかく、マリーが出てきた事で俺も少し冷静になれた。

 このままではまたマリーに危害が加えられるかもしれないし、一旦落ち着いてもらう必要がある。

 男とマリーの間に入ろうと動きだした時、また別の方面から声が届いた。

 

「双方、それまでだ」

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