第35話 可能性、もう一つの衣装、隠し事
「横からすみません。見た感じえっと、カズハちゃんの怪我はそこまで酷くは無い様に見えるんですけど、明後日には動けるようになっている可能性は無いですかね?」
俺の問に、アランさんが渋面を浮かべる。
あぁ、これはダメっぽいな。
「実際、少し動くくらいは全然大丈夫そうなんですが、長時間となると誰かに支えて貰わなければ……。薬師曰く、完治には10日程度は掛かるだろうということでして」
「祈り子の踊りは結構激しいのか」
「いえ、踊り自体は何でもいいんです。でも、街の大通りを東から西へ練り歩きながらなので、そこそこ長丁場になりがちですね」
マリーが補足説明をしてくれる。
踊りを捧げる、と言っていたのでどこか広場あたりで踊るだけだと思っていたのだが、なるほど大通りを練り歩くとなれば結構な距離があるな。
街が出来た当初は街もそれほど大きくなかっただろうから、少し足を痛めている程度ならば大丈夫だったかもしれないが、街が大きくなった今では少々厳しいか。
踊りは何でもいいという事だし、あまり足を使わないような踊りにすれば誰かに支えてもらう事で踊り切る事もできそうだとは思うんだが……。
「では、誰か友達とかに支えてもらうというのは?」
「えと……友達あんまり居ないですし……同い年の子も居なくて……」
あぁそうだった。14歳限定という前提を忘れていた。
うーん……八方塞がりかぁ。
皆してウンウン唸っていると、ハイッ!と元気な声が店内に響く。
「ならボクが支えるっす!」
「いやクロン、お前の衣装ないだろう」
「あああぁぁそうだったっすぅぅ」
頭を抱えながらぬあーと意味不明な叫び声を上げるクロン。
一見間抜けな提案だったように思えるが、しかしクロンのお陰で道筋は見えた。
そう、クロンの衣装さえ用意できればすべて解決出来るということだ。
問題はどうやって衣装を調達するか。
話を聞いた限りだと祈り子の衣装はかなり手間を掛けて作られているようだから、相当質の良いものなのだろうというのは予想出来る。
が、質の良い服、というだけであれば大きな工房に行けば見本用に何着かは用意してあるだろう。
それを祈り子の衣装に仕立て直す、という選択肢が出てこない事を鑑みるに、何か特別な要素があると見る。
となると、新たに仕立てる必要があるが、その時間はない、か。
うーーん、あと一歩なんだが、その一歩が遠いなぁ。
俺に限らず皆も解決策を見出すことが出来ないようで、沈黙が辺りと包みこんだ時、カタリと椅子から立つ音が響く。
「うん、クロンちゃん、ちょっと待っててねぇ」
「え?サリーネさん?」
マリーの問いかけに答えること無く、サリーネが店から去っていく。
何をするつもりなのか、理解出来ている者は誰一人としておらず、皆一様に首をかしげている。
「なんなんでしょうか」
「まぁ、待ってろって事だし、待ってようか」
何はともあれ、出来ることはサリーネを待つことだけだ。
サリーネを待って暫し。
マリーが気を利かせて全員分の茶を入れてくれたところで、カランとドアベルの音が響く。
皆が一斉に視線を向けると、包みを抱えたサリーネが店に入ってきた。
「お待たせぇ。クロンちゃん、ちょっとコレを合わせてみてぇ」
そういってテーブルの上で包みを解くと、その中には鮮やかな赤の布が綺麗に畳まれている。
サリーネが端を持って持ち上げるとその正体が分かった。
何という名前だったかは忘れたが、上と下が一枚の布で出来ているそれ。
「これ、もしかして、祈り子の衣装……っすか?」
「そぉよぉ。良く出来てるでしょぉ?」
こともなげにサラッとそう述べると、広げた衣装をクロンにあてがい満足したように頷く。
「うん、大きさは問題ないわねぇ。これならクロンちゃん用に少し仕立て直せば大丈夫ねぇ」
ポカンとした表情のままサリーネになされるがままのクロンだが、サリーネ以外の全員が似たような表情をしているだろう。
多分、俺も。
「サリーネさん、それどうしたんですか?」
皆を代表するように、マリーが一番聞きたかったことを聞いてくれる。
コレまでの話では衣装を用意するのは難しいという話だったはずだ。
それをあっさり用意するとは……。
「実はねぇ、少し前に試しに作ってみた事があったのよぉ。新品……ってわけじゃないけどぉ、ちゃんと綺麗に保管してたから大丈夫よぉ」
「なんだぁ、そんなのがあるなら早く出してくれれば良かったっすよ!新品じゃないとか全然気にしないっす!」
「うふふ、ごめんねぇ。私もすっかり忘れてたのぉ」
そういいながら、クロンの後ろに周り尻尾の位置などを調べているサリーネ。
傍から見れば本当に忘れていただけ、そう見えるが、そう見えてはいない人物も居る。
「サリーネさん、それもしかして――」
その人物、マリーが口を開こうとした時、クロンの肩越しに片目を瞑りながら口元に指先を当てて見せる。
なるほどな。
詳しいことは分からないが、クロンには聞かせるべきではない、ということか。
サリーネが表沙汰に出来ないような事をしている、とは全くもって思っていない。
が、調達が難しいという話だったはずの衣装を用意するのは普通の手段では不可能だろう。
予想するに……いや、詮索するのは野暮というものか。
「これでボクも祈り子になれるんすよね?」
「えぇ、大丈夫よぉ。大まかな流れとかはマリーちゃんから聞くといいわぁ」
「やったっす!!これならカズハさんも参加出来るっすね!!」
「えっ?えっ?」
未だに事態を飲み込めていないのか、目を白黒させているカズハの手を取りブンブンと振っているクロン。
その様子を見ていたアランさんが、申し訳無さそうにしながらこちらへと視線を向ける。
「その、宜しいのですか?」
それはつまり、カズハに手を貸す事になればクロンも大変なのに、ということだろう。
そういうのはクロン本人に聞いて欲しい……と思うが、まぁクロンはまだ子供と言ってもいい歳頃。
俺が保護者代わりという事になるか。
「本人がそれを望んでいるので」
「そうですか……ありがとうございます」
そう言うと深々と頭を下げるアランさん。
「いえ、俺は何もしてませんから。お礼ならサリーネさんに」
実際そうなんだから、頭を下げられると流石にむず痒い。
むず痒さを受け流す様にサリーネへと投げると、先手を打って気にしないでとばかりに手を振っていた。
だからといってそれで済ませる訳にはいかない、ということなのだろうか。
アランさんは採寸しているサリーネの元へと歩みよると、なにやらお礼を伝えているようだ。
これで一段落ついたかな、と椅子に寄りかかり一息つけていると、マリーがお茶のおかわりを入れてくれた。
「とりあえずめでたし、なのかな?」
「とりあえずは、ですね」
やはり気になるのはサリーネか。
無茶なことはしていないと思っていはいるが、気になることは気になる。
後でクロンの居ない時にでも聞いてみるか。
気の早いクロンが当日はどこで集合だの、どうやって踊るだのをカズハに怒涛の勢いで話している。
対するカズハもクロンの勢いに押されて困惑気味ではあるが、祈り子になれることに喜んでいることは間違いないだろう。
店に入ってきた時とは打って変わって、明るい笑顔を浮かべている。
「お祭り、楽しみですね」
「あぁ、全くだ」
今まで考えていた以上に、明後日の雪解けの祭りが待ち遠しくなった。




