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第29話 試作品、食べ比べ、閃き

 一応は店を開店中にしたままで、3人揃って厨房へ入り込んで暫く。

 いつもであれば遅い昼食を取りに来る客が座っているはずのテーブルには3人といくつもの皿。

 その上には薄皮包みの亜種がズラリと並んでいる。


 生地を厚くしたもの。

 生地を何枚か重ねたもの。

 生地を小さく折りたたんだもの。

 生地をくるくると巻いたもの。

 細長い焼き菓子を中心に入れてそれに生地を巻き付けたもの。

 

 味に変化が無いように焼き菓子を入れたもの以外は全て黄色いクリームといちごのみを入れてある。

 今この場に出ているものは一応は手で持つことが可能になったものだが、問題は味の面だ。

 

「さて、取り敢えず候補としてはこんなもんだが……まぁ四の五の言わずに食ってみるか」

「そうですね。それじゃまずは厚い生地の物を……」


 マリーがナイフで一皿目の生地を厚くした物を切り分ける。

 本来ならば食べ歩きをするのだからそのままかぶりつくのが正解なんだろうが、それぞれ1皿ずつしか作っていないので仕方がない。

 大量に作れる程砂糖は安くないからな……。

 

 ともかく、3等分に切り分けられたそれに手を伸ばす。

 

 うーん……。

 これはこれで、こういう物だと思って食べれば悪くないのかもしれないが、少なくとも俺やマリーが美味いと感じた薄皮包みとは全く別物だ。

 

「なんか……全然違う物っすねこれ」

「生地が厚くなった分、食感が全然違いますね。こう、ムチムチッって感じで」


 表現はともかく、マリーの言いたいことは分かる。

 歯でプツリと切れる……どころか舌でも切れるくらいの柔らかさが消えてしまっている。

 それに味の問題もある。

 

「生地の味が強くなったからか、他の味がぼやけてしまって少し物足りないな」

「ガツンと来るクリームの味が美味しいんすけどねぇ」

「でも……例えば生地に砂糖を入れずに目玉焼きとかベーコンとか乗せたら美味しいかもしれませんね」


 確かに。このムチッとした食感はこれはこれとして案外悪くない。

 甘味ではなく食事として考えるならば寧ろ良いかもしれない。

 が、今は取り敢えず置いておこう。

 

「よし、次は……重ねた奴か。これは何となく分かるな」

「そうですね、先程のとあまり変わらない気がします」


 そう言いつつも綺麗に取り分けてくれるマリー。

 

 うん、味の感想としては似たような物だな。

 やはり生地の味が強く表に出てしまっていて物足りなさを感じる。

 が、食感に関しては思ったよりも悪くない。

 厚く焼くのと重ねるのとではそこまで変わらないと思っていたのだが、以外にも違うものだな。

 

「これ、重ねた間にクリーム入れたら良くならないっすか?」

「そうね。思ったよりも悪くないかも」

「うーむ、それはまぁ悪くないんだが……原材料費がかさむなぁ」


 クロンの作った黄色いクリームは本当に美味いんだが、如何せん使う砂糖の量が多い。

 それを増やすとなると……ちょっと手を出しづらいレベルまで値段が上がってしまう。

 いくら祭りとはいえ限度はあるからな。

 

「次は折りたたんだものか。……うん、これはいいな」

「はい、食感が良いですね。生地とクリームで層になってるのがいいんでしょうか」

「でもなんかちっちゃくないっすか?」


 実際の生地の大きさはクロンの作った通常の薄皮包みと変わらないのだが、小さく折りたたんである分一口でがぶりと行けてしまうからか、確かに小さく感じる。

 見た目的にも、手紙のようだった通常に比べると小さくこじんまりとしてる印象がある。

 もう少し生地が大きくできればまた違うのだろうが、スキレットの大きさが決まっている以上これより大きくは出来ないか。


「少し厚めに焼いて折りたたむ回数を減らすのがいいかもしれないな」

「味がぼやける分は……クリームの量を増やすしかないですね」

「あまり値段を上げたくはないんだがなぁ」

「とにかく次っす。次は丸めた奴っすね」


 今までは折りたたむ方向で厚みを持たせていたが、今度は生地をくるくると丸めたものだ。

 円筒形のそれにナイフを入れるとクリームといちご、生地が螺旋状の層になっているのが見える。

 

「これはかわいいっすね!」

「味や食感は折りたたんだものと変わりませんけど、見た目はこちらのほうがいいですね」

「丸か四角かだけの差なのに、印象違うもんだなぁ」


 女子二人にはこちらのほうが好評なようだ。

 二人の言う通り、生地の淡黄色、クリームの黄色、いちごの赤が螺旋状に並んでいるのは確かに綺麗だ。

 折り畳んだものが最も正解に近いと思ったのだが、どうやらこちらに軍配が上がりそうだな。

 折りたたむよりも作りやすいのも利点だろう。

 

「で、最後か」


 最後は細長い焼き菓子を入れて芯にしたもの。

 焼き菓子はマリー作。コレを作る用のあまった生地を焼いた物を貰ったが、中々に美味かった。

 あれを屋台で出しても文句は言われないだろうな。


 マリーが3等分に切り分けてくれるが、今までと違い切り分ける際にザクッとした音が混じる。

 自分で提案しておいてなんだが、その音を聞いただけでこれはダメなんじゃないかという気がしてくる。

 

 実際、これを食べた二人も微妙な表情だ。

 

「なんか、生地がどっか行ったっすね」

「焼き菓子が強すぎるのかな。生地の食感が柔らかいから、ザクッとした焼き菓子の食感に全部持ってかれちゃってるんじゃないかなぁ」

「持ちやすさはこの中でも一番だったんだが……流石にこれは無いな」


 やはりこの薄皮包みは薄い生地の柔らかさが売りの甘味なんだと実感する。

 中に芯となるものがあれば持った際にも垂れ下がる事は無いだろうと安直な考えだったのが悪い。

 これがもう少し生地の柔らかさを損なわない程度には柔らかく、しかし生地が垂れ下がる事を防げる程度には硬く、更には甘味としても美味しくいただけるような物があれば違うのだろうが、そんな都合のいいものは存在するまい。

 

「作るなら丸めたやつっすかね」

「そうね。今のところそれが一番良さそうね」


 それには俺も同意だ。

 形状的には薄皮包み……というよりも薄皮巻きといった風だが、持ちやすさ、食感、味、見た目と高評価な点が多い。

 唯一少し小さく見えてしまうところが欠点ではあるが、そこはそういうものだと思ってもらえばいいか。


「よし、ならば形はこれで作る事にしよう。後は中に入れる具材だな」


 今回はいちごを買ってきたのだが、店に出す際にはもう少し種類がほしいところだ。

 勿論いちごの薄皮包みは非常に美味かったんだが、選べる楽しさというものもある。

 あまり多すぎても食材を余らせる事になるので困るが、ある程度は多い方がいいからな。

 

「この時期ですと、いちごの他はオレンジと……りんごがもしかしたらあるかなってくらいですね」

「あんまり水気が多いと生地がべちゃってしちゃうっすからオススメしないっすよ」

「となるとオレンジはダメか……」


 この時期はどうしても選択肢が絞られるなぁ。

 もう少し暖かくなれば色々と出てくるんだが……もしくはもう少し南の方なら……。


 ……南?


 あぁそうだった、あるじゃないか!

 硬すぎず、柔らかすぎず、それでいて甘味としても違和感のないあれが!

 

「すまん二人共、少し出てくる」


 ガタリと音を立てて椅子から立つと、そうそうに入り口に向けて歩きだす。


「え、ちょっと、クラウスさん?」

「急にどうしたんすか?」


 背後からそんな声が聞こえてくるが、細かい説明をしているのももどかしい。

 一刻も早く、あそこに行かねばならない。

 

「すぐ戻ってくる!」


 それだけ言い残すと、颯爽とまだ雪の残る通りへと駆け出していった。

 

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