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第23話 腐れ縁、期待、ローガン家

 そんな俺の疑問は、次の瞬間あっという間に解決した。


「マアアアァァァリイィィィちゃぁぁぁぁん!!!」


 何処かで聞いたことあるようなセリフで野太い叫び声が店内に響き渡ったかと思うと、厨房から筋骨隆々の男が飛び出してきた。

 俺達の座るテーブルは厨房から離れた店の奥の方だったのだが、あっという間に駆け寄ると猛烈な勢いでマリーを抱きしめた。

 思わず、おいっ!と声と共に手が出そうになったが、よくよく見れば飛び出してきた男は白髪混じりの爺さんだ。

 ……爺さんだよな。

 この街は本当になんなんだ。何故出会う人出会う人、皆のガタイが良いんだ。

 もしや全員元冒険者とかなのか?そういう街なのか?


「ア、アルバートさん、お久しぶりです」


 少し苦しそうな声でマリーが挨拶をする。

 そうか、この爺さんがアルバートか。


「おぉおぉ、久しいのぉ。元気にしとったか?」

「お、お陰様で……」


 マリーの苦しげな声に気づいたのか、マリーを開放するとニコリと笑顔を見せる。

 うん、顔だけ見れば好々爺といったところか。

 まぁ顔から下がえげつないんだが。


「本当に可愛いのぉ。あの小憎たらしいビリーの孫とは思えんわい」

「あ、あはは」


 あ、マリーが引いてる。

 なるほど、マリーが来たがらなかった理由はこれということか。

 確かビリーというのはマリーの祖父の名前だったか。

 ダニエル爺さんのエール酒蔵でそんな話をしていたはず。

 そういえば、エリーもダニエル爺さんの事は知っているような素振りだったな。

 おおかた、アルバート爺さん、ダニエル爺さんとマリーの祖父のビリーさんが腐れ縁、というやつだったのだろう。

 年を考えると、カーネリアができてすぐか、それ以前からの知り合だったのかもしれない。

 エリーはマリーとエリー二人の両親が仲が良かったと言っていたが、祖父母も仲が良かったんじゃないかこれ。

 かなり親密な関係だったとすれば、エリーがマリーに対して持っていた不満も理解できるところではある。

 マリーの考えも分かるからどっちもどっちか。

 その件についてはもう解決したようなものだしな。


「さて、お祖父様。マリーにも他のお客様にも迷惑になるので厨房へ戻ってくださりませんか?」

「折角マリーちゃんが来てくれたんじゃぞ?もう少しよかろう」

「ダメですわ」

「ぐ……」


 腰に手を当てて毅然とした態度を取るエリーと、苦笑を浮かべているマリーとの間を何度か視線が往復したのち、アルバート爺さんは肩を落とす。


「わかったわかった。そう睨むでないわ。全く、ウチの孫は誰に似たのか可愛げがないのぉ」

「何かいいまして?」

「マリーちゃん、ゆっくりしていっていいんじゃぞ」

「ありがとうございます、アルバートさん」


 最後の抵抗とばかりに小言をチクリと言うアルバート爺さんだが、エリーにギロリと睨まれるとそそくさと退散を決めたようだ。


 うん、それは正しい。あれには勝てん。


 時間にすれば僅かな時間だったのだが、どっと疲れた面持ちのマリー。

 確かにあれは疲れるな。

 マリーも別段嫌っている様子ではないが、流石にうんざりしているといったところだろうか。

 厨房へと歩き始めたアルバート爺さんだが、ふと、ぴたりと足を止めると振り返る。

 まだマリーに未練があるのかと思ったが、その視線の先にいるのは俺だ。


「期待しとるからの」


 そう一言言うと、今度こそ厨房へと戻っていった。


 参ったな。

 そんな単純で真っ直ぐな言葉をかけられたら、気張るしかないじゃないか。


 アルバート爺さんにとっても、走る子馬亭は特別な感情のある店だろう。

 それを、見ず知らずの男が立て直そうというのだ、その胸中にはどのような思いがあるのか、正確なところは俺には理解できない。

 だがやるべき事は明確だ。

 アルバート爺さんの期待には、それで応えよう。


「全く、お祖父様にも困ったものですわ」


 アルバート爺さんがちゃんと厨房へと戻ったことを見届けて、マリーが肩をすくめて見せる。

 まぁ俺の見た所、本当に困っている、といった様子ではない。

 そのあたりはマリーの反応にも似たものを感じる。

 と、ここでふと気づいたことがある。


「ところで、エリーが店主って話だったよな?祖父がいるならそっちが店主というのが普通な気がするが」


 別段、子や孫に譲るというのは珍しいというわけではないが、本人がまだ厨房に立っているというのに店主を譲るというのはあまり聞いたことがない。

 俺の問にエリーは、はぁぁぁ、と大げさな程にため息をつく。

 なんか、マリーに関するアレよりもこっちの方が重大そうだな。


「お祖父様、自分は調理に専念したいからって、ずっと昔にお父様にお店の経営を全部丸投げしたんですの」

「ん?ならばエリーの親父さんが店主じゃないのか?」


 条件反射的にそう疑問を投げてしまったが、瞬時に気づく。

 マリーがそうだったように、エリーの両親も、もしかしたら既に亡くなっているのではないかと。

 まずい事を聞いてしまった、と撤回しようと口を開くと、エリーからは再び盛大なため息が漏れる。


「お父様とお母様はフォートサイトで新しい店を開いたからってそっちへ行っておりますの。この店はわたくしに丸投げですわ」

「そ、そうか」


 予想していた悪い答えが帰ってこなくて安心したが、なんというか、似たもの親子なんだな。

 しかしフォートサイトか。

 カーネリアは開拓の橋頭堡として作られた街だが、今では開拓の最前線がさらに西に伸びているので、立ち位置的には中央と最前線との中継地点といったところになっている。

 今、開拓の最前線となっているのがフォートサイトだ。

 新しい街は儲けの機会にも恵まれるだろうが、その分色々と問題もあるはずだ。

 賭け、とまでは言わないが、リスクの高い選択ではある。

 中々に商魂たくましいと感心する。

 なんというか、本当にすげぇ家族だな、ローガン家ってのは。


「まぁ、ゆっくりしていきなさいな。うちの料理はどれも自信作ですから、期待を外れることはないと断言いたしますわ」


 そう言うとすぐさま別の客の注文を取りに動き出すエリー。

 この店の給仕たちのレベルが何処ぞの貴族のメイドかと思うほどに高いのは、店のトップたるエリーのレベルが高いから、というのもあるのだろうな。


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