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第104話 芋掘り大会

 そこはまさに広大な畑だった。

 見渡す限りの刈り取られた後であろう麦畑が広がり、時期にはまさに黄金の草原となっていたであろう事が容易に想像できる。

 そんな膨大な規模の麦畑が広がる視界の隅に、ちょこんと存在するまだわずかに緑を残した場所が存在する。


 そここそが芋掘り大会会場となる場所だ。


 ちょこん、とは言ったがそれはあくまで麦畑と比較しての話。

 決して小さくはないその芋畑で、今、芋掘りカーネリア最強を掛けた戦いが始まろうとしているのだ!


「思ったよりも多いな……」


 そろそろ開始だということで芋畑に来てみれば、俺の予想していた以上の漢達で溢れかえっていた。

 この肌寒くなってきた時期だというのに、すでに半袖で準備運動を始めている面々も多く見受けられる。


 ざっと見渡すと見知った顔も多い。

 いつも集団で店になるやってくる木工ギルドの面々や、鍛冶屋のグラーフ、葡萄酒醸造のウィルソンにエール醸造のダニエル爺さんまで居る。


 そこでふと気がついたことがある。

 当然と言えば当然かもしれないが、参加者は皆かなり体を鍛えている。

 この街に来てからずっと不思議に思っていたのだが、カーネリアの男連中は職業に関係なく皆やけにガタイが良いなと思っていた。

 ……まさか、この芋掘りのために皆体を鍛えているとでもいうのか?


 この大会、思った以上に本気度が高そうだ。


 そう思うと、なんだか申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 正直なところを言えば、この芋掘り、あまり乗り気じゃない。


 勿論、街の祭りだしなにかしら参加しようとは思っていたのだが、元々はマリーと葡萄踏みに参加しようと考えていたのだ。

 例の件で葡萄踏みの参加は諦めたのだが、芋掘りに参加を決めたのはその場の流れというか、その場しのぎで決めたようなものだ。

 いくら祭りとはいえ……いや、祭りだからこそ、皆が本気で参加しているであろうこの芋掘り大会を、まるでマリーとの話から逃げるために利用しているようで、後ろめたさを感じていた。


 そんな事を考えれば当然出てしまう小さな溜息を吐ききった時、一際目立つ姿を視界に収めた。

 その毛むくじゃらも俺の事に気づいたらしく、カーネリアではあまり見かけることの無い狼耳を動かしながら近づいてきた。


「よぉクラウス。てめぇも参加か」

「ん……ギルも居たのか」


 その男、ギルガルトが片手を上げたのに合わせてこちらも片手を上げてやると、ペチンとひ弱な高い音が響く。


「あん?」

「どうした?」


 こうして手を合わせるのは別に珍しい事ではない……というか、ギルの機嫌が良い時は大体こんな感じだったはずだが、ペチンと音を立てた右手を見ながら、ギルはなんだか怪訝な顔をしていた。


「いーや、なんでもねぇ。それよか、こんな面白そうな事に俺様が参加しないわけがねぇだろうが」

「そりゃそうだ」


 昔からこういったお祭り騒ぎが大好きだったギルが参加しないというのは確かにありえない話だな。

 が、どう考えても体力勝負になるこの芋掘り、ギルはかなりの強敵となり得るだろう。

 他の街の住民達は毎年の参加で慣れているところもあるのだろうが、ギルの持ち前の体力と膂力は半端ではない。

 強引に勝利をかっさらっていく姿を想像するのは難しくないな。


「で、てめぇは何処にするんだ?」

「何処?」


 ギルのよく分からん問に怪訝な顔をしていたんだろう、呆れたような顔をしたギルがクイッと親指でギルの後ろに広がる畑を示す。

 よくよく見れば、集まった参加者らしき面々は各々、畑に一直線に作られた畝の前に並び始めていた。


「それぞれ植えられてる芋を一直線に掘って行って、最初に畑の向こう側についた奴が勝ちらしいぞ」

「へぇ~」


 てっきり掘った量が一番多い人が勝ちって話なのかと思っていたのだが、予想外な勝敗の付け方だな。

 ざっくり見た所、1つの畝にはおおよそ20くらい植えられているように見えるが、場所によって数が違うようにも見えるんだが……。


「一応、植えてある量は変わらんらしいぞ。まぁどんだけ芋が出来てるかは運次第なところもあるだろうけどよ」

「単純に体力勝負ってだけじゃないのか。中々面白いな」


 まぁ祭りの一環なんだ、あまりガッチガチにしても仕方ないか。

 それに、どの畝を選ぶか、というのも実力のウチだと思えばそう悪い話でもないか。


「ギルはどうするつもりなんだ?」

「俺様は場所を選ばねぇからな。適当に……そうだな、てめぇの隣にでもしとくか」

「わざわざ隣に来なくてもいいんだが……」

「ハッ、眼の前で俺様が勝つところを見るのは嫌ってか?」

「あー、はいはい、好きにしてくれ。……俺はここにするか」


 獣人特有の鋭い牙を見せつけながらニヤリと笑うギル。 

 ギルが喧嘩っ早いのはいつものことながら、あまり理不尽な挑発をするやつではなかったような気がするんだが……いや、そんな事はないか。

 あからさま過ぎる挑発に乗ってやる訳では無いが、無理に避ける程でもないと判断して、さっさと適当な畝の前に陣取ることにする。

 ギルは宣言通り俺の隣の畝に向かった。

 

 畝と畝の間は大人1人が通れる程度の間隔で当然ながらギルの顔もよく見える。

 見るからに獰猛そうに見える牙をむき出しにして笑みを浮かべるギルに対し、俺はなんとも乗り気のしない気持ちのまま、芋の植えられている畝を改めて眺めた。


 芋掘りの経験自体は無い訳では無い。

 といっても、こうして作物として植えられている芋を掘るのはほとんど経験は無いが。


 植えられている苗をよく見れば、おそらくこれは赤長芋。

 一般的に芋といえば丸芋の事を指すが、赤長芋を栽培しているのはあまり見かけたことが無いように思う。

 赤長芋は荒れた土地でも育つ事が冒険者の中では一般的に広まっており、野生の赤長芋は食料調達の基本でもある。

 黄色く文字通り丸い形をしている丸芋に対し、細長く赤い色をしているのが赤長芋の特徴だ。

 細いが故に折れやすいから、掘る際にはその点を注意しないとならないかなぁ。


 乗り気ではないとはいえ、出るからにはやることはやらないとだなと、どうやって掘るかを考え初めたところで、一つ声が上がった。


「そろそろ開始します!皆さん準備はよろしいですか!?」


 精一杯の大声を上げているのは商業ギルドの受付か。

 こういった催し物の取り仕切りもするのだから商業ギルドも楽なものじゃないなぁ。

 彼の問にはそこかしこから野太い声が帰ってくる。

 ちなみに隣の狼が一番うるさかった。

 

「それではカーネリア芋掘り大会……始め!」



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