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ケビン・ファスナー主演「ボディガーッ」

作者: URABE


--ウソでしょ。そこまでゴツくなったと言うの??


告別式へ向かうため、数年ぶりにワンピースタイプの喪服をかぶったところ、胸あたりで頭と腕が詰まり、窒息しかけた。発狂のあまり私は、布を破る勢いでワンピースを脱ぎ捨てる。

あぁ、危なかった・・・


これはまずい。告別式当日の朝、喪服が入らないから行けません--。などという失態が許されるはずがない。

焦る私は念のため、ワンピースの背中にあるファスナーを確認する。


--もっと下までファスナー開くじゃない!


見ると、ウエストの上あたりでファスナーが止まっている。そこからヒップにかけて広がるデザインのワンピースため、ファスナーの両サイドの布が中央に寄っており、一瞬、引っかかるようになっていた。

呼吸を整え慎重にファスナーを下ろすと、背中側がバックリと口を開けた。


--これなら、間違いなく入る。


安心した私は、今度は上から足を突っ込み、ダイビングスーツを着るかのように袖を通す。当たり前だけど余裕で装着できた。あとは背中のファスナーを閉めるだけ--。


お尻の辺まで開いているファスナーを徐々に上げていく。肩甲骨の高さまで閉めれば、あとは上から引っ張ればいい。そしてなんとか背中の半分くらいまで指で押し上げたところで、次は首の方から引き上げようと、右手を背中へ回す。


--なんと、肩と胸と前腕の布が邪魔をして、手が上がらない。


いやいやいや、これはマズイ。腕の血管が血圧測る時みたいに浮き上がってきたし。


断じてふざけてはいない。当たり前だ、ふざけてる場合じゃない。家を出る時間は刻一刻と迫るのに、喪服の装着が完了しないなんて。

とその時、とっさに私は思いついた。


--そうだ、ブラをスポブラにしよう。


肩周りや胸がキツくて腕が上がらないのならば、その部分の厚みを減らせばいい。決して豊満なバストではないけれど、せめてブラパッドがなければ、その分、体の厚みを消せる。さらに最悪、背中が見えてもスポブラならば問題ない。


すぐさま薄手のスポブラに着替えると、ファスナーを背中まで上げ、再び腕を背後へ伸ばす。


--ダ、ダメだ。


私はパニックに陥った。目から涙が溢れ出る。こんなことのために涙を使いたくないのに。

もはや冷静に調べる余裕も、それに耐えうるメンタルもない。震える指で友人にヘルプを送る。


「大至急、ワンピースの背中のファスナーを一人で閉める方法を教えて」


その間も何とかして、上がらない腕を上げる工夫をするも思いつかない。

そう言えば肋軟骨を骨折したとき、やはり腕を背中に回すことができなかった。あの時はドアノブにスポブラを引っ掛けて、床にしゃがむことで脱いだのを思い出す。


だけど今回は、ファスナーのつまみ部分が小さすぎて、どこかに引っ掛けたり挟んだりすることは不可能--。


そうこうするうちに、もはや電車に乗り遅れる時間となってしまった。あまりのパニックで過呼吸になりかけたところ、ようやく友人から返信が届いた。


「ファスナーにヒモを巻いて引っ張る。ヒモがなければ、手持ちのネックレスのフックをファスナーに付けて引っ張る」


たしかに有効そうだしありがたい情報だけど、ウチにヒモはない。さらにネックレスの長さじゃ肩まで届かないため、手で引っ張ることができない。それでも何か代わりになるものはないか、目を皿のようにして探したところ、視界に「ヒモ状」のものが飛び込んできた。--携帯電話の充電器。


10秒ほど考えた結果、絶対に無理だと判断。手に取った充電器を投げ捨てると、私はそのままクロックスを引っかけて家を飛び出した。


--最後の手段だ、あそこへ行くしかない。


全速力で向かったのは近所のスタバ。コーヒーを飲みながらくつろぐ女性の目の前に滑り込み、


「お願い、背中のファスナー上げて!」


と真顔で頼む。話しかけた途端、女性は椅子から転げ落ちそうになった。しかし事態を察するとすぐに、背中のファスナーを上げてくれた。


「行ってらっしゃい」


見知らぬ女性に見送られながら、私は高別式へと急いだ。



(了)


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