前編。
※途中、ガッツリ下ネタ入りますが、エロはありません。
誤字直しました。ありがとうございます。直していない部分については、一応間違ってはいない表記となります。
近頃、同じ学園に通う婚約者の様子がおかしい。
元々、親の決めた婚約というのを気に入っておらず、婚約者とはわざとあまり交流を持つことをしなかった。
偶に会ってやれば、不機嫌さを感じさせる無表情で、お茶会などは苦痛で仕方がなかった。
だから、一つ下の婚約者が入学して来てからも、割とあからさまに避け続けていた。
そして、どうせ卒業したら結婚させられるのだからと、今のうちにと少々の自由を謳歌していた。
すると、これまで交流の無かった婚約者がえらい剣幕で、俺へと侍る女子生徒達と戯れているところへ、抗議をして来た。
「みだりに女性と接することはお控えください」
と、不快そうな表情を隠すことなく。
勿論、今までろくに交流もしなかった婚約者にいい感情を持てる筈も無く、婚約者の抗議を無視してそれまで同様、俺に寄って来る女性達と自由な恋愛を楽しんだ。
俺が取り合わないとなると、婚約者は、俺に寄って来る女性達を牽制するようになった。
「殿下へ近付くのはおやめなさい」
と、俺の遊び相手へと言って回る。
そこまでされると、疎ましいと思っていた婚約者に腹立たしさを感じるようになって行った。
だから、
「どうせ、いずれはお前と結婚させられるというのに、今から妻のような顔をして束縛されるなんて堪ったものじゃない! わたしの交友関係に口出しするなっ!?」
そう怒鳴り付けてやった。
婚約者は……なぜか酷く傷付いたような顔をして、その場を立ち去った。
これであの女も、もうなにも言って来ないだろうと思っていたのだが――――
それから暫くして、婚約者が奇妙な行動を取るようになった。
俺の交友関係に口出しはしない。ただ、やたらと俺の健康を気にするようになった。
媚びでも売っているつもりか、と最初は婚約者を相手にしなかった。
しかし、やがて婚約者は身体にいい物だと、食べ物や菓子、怪しげな香などを俺に押し付けて来るようになった。そんな風にして諂ったところで、俺が婚約者に絆されることなど無いというのに。
婚約者から押し付けられたものを口にする気はさらさら無かった。しかし、使用人が勝手に俺の茶菓子に出したり、部屋に香を焚いたりしていたようで・・・
そういうときに限って、どことなく気分が沈んだり元気がなくなっていたことに、後から気付いた。
実は使用人が、婚約者から押し付けられた物を俺の許可無く独断で出していたのだと。
毒見はちゃんとされており、
「毒物は一切検知されておらず、問題はなかった筈です。むしろ、殿下のお身体を気遣ってのことです」
そんな風に訴えていたが、俺に断り無くそんなことをしていた侍従は勿論、馘にしてやった。長年俺の侍従をしていたというのに、その俺の身を危険に晒すような真似をするとは・・・
酷く裏切られた気分になった。
あの婚約者のことだ。もしかすると、王室の毒見役でも検知できないような毒を、遠方から取り寄せることくらいはやるかもしれない。
もしかしたら、あの侍従は婚約者に誑かされていたのかもしれない。あの女は、父に選ばれる程度には外面がいいからな。
これからはもっと、俺の言い付けをきちんと守れる者だけを重用した方がいいと思い、使用人達を入れ替えることにした。
使用人は主に忠実であるべきだからな。
そんな中、婚約者が俺へと不審な男を寄越した。あの女からの紹介状で、医師を手配したので是非とも俺に診察を受けてほしいと、勝手に。城には専属医がいるというのに、外部の見知らぬ男を、だ。
明確に怪しい。よって俺は、診察とやらを拒否してその男を追い出し、婚約者へと抗議をした。
直接会うのは嫌だったので、『勝手な真似をするな』と、手紙で。
あの女のことだ。きっと、偽者の医師を使って俺を害そうとしたに違いない。
これを機に、俺は決意した。
幾らなんでも、俺に毒を盛ったり害そうとするような女となど、結婚できるワケがない。
国王である父にそれとなく婚約解消を頼んでみたが、笑われて本気にはされなかった。
婚約者から押し付けられた物を食べて体調がおかしくなったから信用できないと訴えてもみたが、毒物などは検知されておらず、単に身体に合わなかったか、体調が悪かったのだろうと言われた。
あまつさえ、婚約者はできた女だから大切にしなさい、とまで言われる始末。
父も、既に婚約者に誑かされているのかもしれない。
どうしようかと思い悩み・・・
これはもう、衆人環視の中で有無を言わさず断罪するしかないと決めた。
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そうして臨んだ王城での立太子パーティー。
開会の挨拶を済ませた瞬間に、
「リリアラ・フォルテ! 王太子であるこのわたしへと毒を盛った罪、許されるとは思うまい! 貴様との婚約は今を以て破棄し、取り調べの為に拘束させてもらう!!」
そう叫んだ。
一気にざわつく会場。
婚約者……いや、元婚約者のリリアラ・フォルテが注目を浴び、一瞬だけ驚いた顔をした。そして、
「婚約破棄については、喜んで応じさせて頂きます。けれど、殿下が毒が盛られたことに付いては、全く身に覚えがありません。冤罪です」
冷たい表情で言った。
「惚けるつもりか? 貴様がわたしへと送り付けて来た食料品、そして医師だと偽ってわたしへ差し向けた不審な男のことだ」
「ああ、アレですか。アレについては……後日お話ししますので」
どことなく浮かない表情で言葉を濁すリリアラ。
「後日ではなく、弁明があるのなら今この場で聞いてやるっ!」
「それは・・・」
「その身に疚しいことがないというのなら、この場で話せる筈だ! それともやはり、貴様はわたしの暗殺を企んでいたのではないかっ!? だから皆の前で話すことができないのだろうっ! 違うかっ!?」
「王族の暗殺未遂とは、穏やかでない。証拠があって言っているのだろうな?」
俺の厳しい追及に、国王である父からの重々しい問い掛け。
「はい。リリアラ・フォルテから送られて来た食料品は保管してあります。きっと、この国では見られない毒物の類が検出される筈です」
「そうか。リリアラ・フォルテよ。直答を許す。弁明があるのなら聞こう」
国王であるからか、一応は罪人であるリリアラの言を聞くつもりらしい。さっさと牢にでも入れてしまえばいいものを。
「・・・わかりました。このような場で話すことではありませんが、国家反逆罪という冤罪を掛けられ、一族にまで累が及んでは堪りません。正直にお話し致します」
リリアラは、国王へと視線を向けて訴えた。
「実は・・・わたくしは、第一王子殿下の身を案じていたのです」
「嘘を吐くなっ!? 案じている振りをしてわたしを害するつもりだったのだろうっ!?」
「今はリリアラ・フォルテの言を聞いている。邪魔をするでない」
低い声で威圧的に睨まれ、思わず身が竦んだ。
「も、申し訳ありません」
「リリアラ・フォルテ、続けよ」
「はい。わたくしは、真実殿下の身を案じておりました。わたくしの行動が、殿下のご不興を買っていることは重々承知しておりました。ですが、殿下の御身を案じての言動や贈り物であったことは、ご理解くださいませ」
婚約者を案じる振りを続けて同情でも買うつもりか? この程度で父が絆される筈はないだろうに。
「そうか、しかしそれは息子には伝わっていないようだが? 息子の言っている、其方が送ったという食料品は真実毒物ではない、と?」
「はい。ですが、体質に合わなくて具合が悪くなってしまう可能性も稀にはあります。その場合は、申し訳なく思いますけど」
「成る程。では、不審人物を息子へ近付けたというのはどういうことだ?」
「それ、は・・・」
リリアラは言葉に詰まり、俺を見やる。その頬が、なぜかサッと赤く染まった。そして、意を決したように真っ赤な顔を上げ、
「わたくしは婚約を破棄された身。このような身で、なにを恥じらうことがありましょうか・・・」
大きく息を吸い、
「殿下が性病に罹っていないか心配になり、性病の専門医に秘密裡に診察を受けてもらおうとしましたっ!!!!」
大きな声で物凄い爆弾発言をかましやがった~~~~~っ!?!?!?
しんと静まり返る会場。集まっていた紳士淑女の皆が、愕然とリリアラを見ている。
「殿下の浮名は、以前にもご報告しました通りです。無論、わたくしも殿下をお諫め致しましたわ。けれど、婚約者だからと今から妻のような顔をするな、と。学生の今のうちに自由を謳歌させろ、と。交友関係に口出しするのはやめろ、と強く叱責されてしまいました。父にも、陛下にもそのことをご相談させて頂きましたが、浮気を許すのも女の甲斐性だと、悋気を起こしてはならない、と。相手にされることはありませんでした。そして殿下は、わたくしの口出しが無くなると、更に羽目を外すようになって行きました。殿下が側近の方々と幾度も城を抜け出し、下町の安宿で、私娼を相手にしていたことをご存知でしょうか? そんな色欲旺盛な殿下へ、鎮静効果のあるハーブや食べ物、お香などをお送り致しました。暫くは殿下の侍従が、羽目を外している殿下を心配して殿下へ出したり、お香を焚いたりしていたようですが、その後、その侍従を含めた使用人の幾名かは殿下の世話役から外されている筈です。そんな乱れた生活を送る殿下を心配して、性病の専門医を手配致しました。けれど、殿下はその診察を、拒否なさいましたっ!!」
切々と訴えるリリアラ。
「な、なっ、貴様っ!? 女のクセになんてことを公衆の面前で言うんだっ!?!?」
思わず怒鳴ると、
「あら、殿下の暗殺を疑われて、冤罪で一族郎党が処刑されてしまうよりはいいかと思いまして。それに、わたくしが場所を変えましょうと言ったのに、疚しいことがなにも無ければ、この場で話せる筈だと仰ったのは殿下ではありませんか?」
「っ……そ、それはっ……」
まさか、リリアラを追い詰める筈が、このような屈辱を味合わされるとはっ!?!?
「疚しいことは一切ありませんので、わたくしの言い分を述べさせて頂きました。殿下が乱れた生活を送っていたので、心配しておりました。それで、陛下。わたくしの潔白は証明されたでしょうか?」
「う、うむ」
淡々と話すリリアラに、気圧されように頷く父上。
「それに、陛下はこのような話を知っておりますでしょうか?」
「な、なんの話だ?」
「性病の中には恐ろしい症状の病があり、一見無症状のように、健康体のように見えながらも、罹患した者の身を少しずつ蝕み、気付いたときには病原菌が頭にまで回り、正常な判断が下せなくなる……そんな病があることを」
そう言って、ちらりと俺を見やるリリアラ。
「殿下は、このような方でしたかしら? このような衆人環視の場で、婚約者へと婚約破棄を叩き付け、よく調べもしていない事柄で、冤罪を叫ぶ程に愚かな方だったでしょうか? 殿下は、もう既に・・・」
その言葉に、ハッとした顔で俺を見詰める父上。
「ま、まさか、お前・・・」
「ち、違います父上っ!? そのようなことはっ、わたしが病気だなんてことはありませんっ!?!? う、嘘を吐くなリリアラ・フォルテっ!!!!」
「信じたくないお気持ちもわかりますが、その病気の一番恐ろしいところは、本人が無自覚の為、床を共にした相手へと病原菌を撒き散らしてしまうことです。無論、通常の接触や空気感染をすることなどはありませんので、この場では大丈夫ですが」
ざわり、と気配が動き、俺の周囲から一斉に人が引いて行った。
「そして、床を共にした相手もまた、病の元を保有してしまうのです。夫婦など、決まった相手としか愛を交わすこともないのでしたら、病を広げてしまう可能性は低いでしょう。けれど、乱れた生活を送り、次々にお相手を変えて夜を過ごすような方は、どんどんとその病を広げてしまうのです。わたくしは、殿下をお諫めしたのですが、全く聞いてもらえず・・・」
「お、お前はそんなこと一言もわたしに言ってなかったじゃないかっ!?」
「お身体にお気を付けください、病気には呉々も罹りませんように、生活を調えてください、と。常々そうご忠告させて頂きましたが?」
「そんな言い方で伝わるかっ!?」
「伝わらない、のですか?」
リリアラが、とても驚いたようにぱちぱちと瞬いた。そして、
「陛下、これは由々しき問題です。まさか、殿下がこれ程に無知だとは思いも寄りませんでした」
真剣な顔で父上を見据えて言った。
「う、うむ」
「では、直ちに殿下の診察と、殿下と床を共にした方、更にはその方が床を共にした方々……と、聞き取り調査と診察とを提言致しますわ。そうでなければ、急速に病が国中に広がってしまうかと。あと、ついでに言っておきます。処女の乙女には病気を治す効力がある、などと言った迷信を信じるような良識の無い、愚か極まりない方がこの場にいらっしゃるとは思いませんが、そのような話には医学的な根拠が微塵も無く、ただただ感染を拡大させるデマであることを公布してくださいませ。性病の一番の感染予防は、禁欲ですので。ご自分が病気持ちでないことを確認してから、特定のパートナーだけとお過ごしになることをお勧め致します」
「直ちに執り行おう」
「父上っ!?」
「連れて行け」
父上はわたしを見ずに命令し、わたしは近衛に引き摺られるように会場から連行された。
「わたしは病気などではありませんっ!? お前もなんとか言ったらどうなんだっ!? リリアラぁっ!!!!」
読んでくださり、ありがとうございました。
立太子パーティーでやらかした!(笑)