(1)なんで告白される側の私が頑張ってるんだよ!
「寺内さん……!」
ここは学園の屋上。
屋上への呼び出し、そして個人的なお話。
これはもう間違いない。
そう……現在、私は想い人から告白されている真っ最中なのだ!
仮にこれが罰ゲームの嘘告であろうと、そこから関係を発展させてみせる。私はこの機会を必ずモノにする……! アドバイスありがとう、親友のちーちゃん。私、これからリア充になります!
「は、はい」
「よかったら俺と……! ふう、ちょっとタンマ」
「え!?」
ここで寸止め!? もう一息でしょ!?
「ごめんごめん、緊張しててね。仕切り直してもいい?」
「もちろんだよ新藤くん!!」
むしろ緊張するほど想ってくれて嬉しいよ!
「実はね、俺……寺内さんの事が好きなんだ。もちろん無理めなのは分かってるんだけど、玉砕しておかないとスッキリしないというか……。でもありがとう! なんか、やり遂げた気分になったよ。今日は良い記念になった!」
あれもう爽やかな顔で諦めてる!? 自己完結するのが早い早い! まだ「付き合ってくれ」すら言ってないって!!
「ちょっと待った!!」
「寺内さん?」
「いやいやいや、ここで終わると後で後悔するよ? ほら、まだ全部出し切ってないんじゃない?」
「うーん、そうかな?」
「そうだよ! さあ、もう一歩! 頑張れ頑張れ!!」
あれっ、なんで私、告白されてる側のハズなのに新藤君を応援してるんですかね!?
「そう言われると確かに。第一、返事も貰ってないし」
そこだよ! 君、目の付け所がいいよ!!
「うんうん!」
「よし……! ありがとう、不完全燃焼は後悔しそうだし、俺がんばるよ!」
バッチこい!!
「ほら、私いま待ってるから! ここだから!」
「実は俺、寺内さんの事が好きなんだ! ダメ元で言っちゃうんだけど俺と付き合ってほしい!」
来た!! ここからは親友のちーちゃんの言う通り、恋の駆け引きだ!! さすがにここまで来ると彼もグイグイと押してくるだろう……!
「えぇー、これでも私、けっこう告白されててね。でもね、新藤くんがどうしても──」
「ははっ、だよね。寺内さん可愛くてモテモテだし、俺よりいいヤツはいっぱいいる。いやぁ、今度こそいい記念になったよ!」
なんで! そこで! 諦めるんだよ! 明らかにあと一押しって雰囲気でしょ!? あと可愛いって言ってくれてありがとう、超嬉しい!!
「いやいやいや、いま他の人の事とかいいから。勘違いされないよう言っておくけど、これ単なる駆け引きだからね?」
「でも俺と寺内さんじゃ明らかに釣り合いが取れてないからなぁ」
なんでだよ! 君、文武両道の人でしょ!? なんでそんな卑屈なの!?
「いやいやいや、釣り合いとかこの際おいておこうよ。大事なのは本人たちの気持ちだよ?」
「確かに……気持ちは大事だね。お互いの気持ちがないと幸せになれないし、もっと言えば優しさも大事だ。優しさか……俺より親友の内藤の方が優しいな。あ、もしかすると内藤の方が寺内さんを幸せに──」
「ちょっと待った!!」
「寺内さん?」
「さっきも言ったけど、他の人の事は今はいいから! なんで『好き』とか『付き合ってほしい』ってサラッと言えるのに、ここぞという所で引くの! 君は押せない呪いでも受けてるの!? ほら、大丈夫だから!」
「俺なりにけっこう頑張ったとは思うんだけど……もうちょっと押してもいいのかな……?」
「うんうん!」
ほら、押せばおちる女の子が目の前にいるから! 今か今かと待ってるから!
「ありがとう、寺内さんは優しいな。例えるなら女神だね。果たしてそんな崇高な存在を俺は幸せにできるのか……」
「それむしろ押すどころか引いちゃってるよ!! なんで!? そういう悩みをクリアして今こそ告白しに来たんじゃないの!?」
もう! とうとう声に出してツッコんじゃったよ!! あと女神は言い過ぎ!! でもありがとう!!
「それはそうなんだけど。いざ対面すると寺内さんが思ったよりも眩しくて」
「さっきからそれワザと言ってない? まだ告白に成功してない状態でそこまで言えるのって新藤くんくらいだよ?」
「だよね、俺ってちょっと厚かましいよね……」
「違うから! そういう意味じゃないって! 褒められて嬉しいって思ってるから! 幸せにできるというか、今まさに幸せだから! そういうことじゃなくて、もっとこう……来なよ!」
「寺内さんはいま幸せなの?」
「え、う、うん」
それ聞いちゃう? というかもう告白とか意味なくない?
「ここが幸せの絶頂、か」
「絶頂じゃないから! まだ始まったばかりだから! 『あとは落ちるだけ』みたいなニュアンスやめてくれない!?」
「ああ、ごめん。女神な寺内さんが幸せって聞いて、俺の方が嬉しすぎて天にも昇る気持ちになっちゃってて、つい」
「~~~!! ともかく続き!!」
なんだこれ!!
さっきから羞恥プレイというか……実はこの人、ネガティブの皮を被ったドSじゃないの!?
ちーちゃん、せっかくのアドバイスだけど、告白の駆け引きとかセオリーってこの人には通用しない!! マイペースすぎるよ新藤くん!! でも好き!!
「おっとそうだった。あ、ところで寺内さんってカルボナーラ好きなの?」
「ここで食べ物の話!? なんで!? 確かに好きだけどコレ告白でしょ、意味不明なんですけど!!」
「いや、さっき幸せって言ってた時の顔と、お昼にカルボナーラを食べてた時の顔が一緒だったから。ほら、好きな人って近くにいると、つい目で追っちゃうというか」
微妙に関係あったよ!! ちゃんと私のこと見ててくれたんだね!! でも微妙すぎて的からズレてるから!!
「目で追っかけるとか、その理屈はわかるけど! カルボナーラと告白を同列に扱われるとちょっと複雑……!」
「自分のデリカシーの無さに嫌気がさすな……」
「違っ! バッシングしたいわけじゃなくて!! ああもうジレったい!! 新藤くんは私と付き合う!! それでいい!?」
「嬉しいけど、寺内さんは俺と付き合いたいの?」
「だからさっきからそう言って──なんで私が告白させられてるんだよ!! これ相手が私じゃなかったら百年の恋も冷めてるからね!?」
こうして私たちは付き合うことになった。