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「お待たせしました、こちらでお話をしましょう」
着いた場所は神社だった。なんで神社?
「こんな所で話ってなんだよ?俺は報酬を貰えばそれでいいんだけど?」
「ある方に会ってほしいのですよ。その方が貴方にお礼が言いたいと言っていまして」
「あれか?お前の上司的な人か?」
「まぁ、そんな方です」
階段を上り、本殿に着くとあちらこちらに狐が居た。ただの狐じゃない、全て妖獣の狐だ。最初は飯綱使いだしなと思ったが、飯綱以外の妖獣狐も居る。本気で怪しくなってきたな。
「この奥でお待ちです」
そう言って扉を開けられ中に入って、俺は驚いた。目の前に圧倒的なプレッシャーを放つ、白い妖怪狐が居たからだ。こんな圧は、あの悪魔並みじゃねぇか?体が硬ってしまったままでいると、一緒に入ってきた飯綱使いの女が。
「妖力が出まくりですよ、ほら抑えてください」
「ふむ、すまない」
そのやり取りで空気がフッと軽くなった。一体なんだ。なんでこんな最大級のバケモンがこんなとこに…。
「おい、アンタなにもんだ!」
「突然にすまなかったな、人の子よ。我は、ここの主の白狐という。今回は野狐になってしまった同胞の始末をつけてくれた事を感謝するぞ」
なんか、妖怪からお礼を言われた。え?意味がわからない。コイツら、妖怪だよな?退治する側になんで普通にお礼?てか、招き入れてるのは何故?
「なぁ?なんで祓い屋の俺をここに呼んだ?アンタらとは敵同士だろ?」
「誤解しないでほしい、我らは人に悪事を働く気は無い。むしろ、逆。助けようと思っているもの達がここに居るのだよ」
「それを俺に信じろと?」
「人間にも善と悪があるように、我等にも善と悪があるのだよ。そして、ここでは己を鍛えるための修行場でもある。ちなみに、お主に依頼をしたそこの人の女の姿をした者も、同胞であるぞ」
「嘘だろ…」
振り返るとニコッと笑いながら狐の姿になった。騙された…。
「騙してはおらぬよ、人の子。ちゃんとこの子も、ここで修行を果たし外で仙術などを使い人助けをしておるからの」
「心読めるのか…。てか、仙術とか色々出されたりするともう何がなんだか。というか、そんな力があるなら自分達で解決したら良かったじゃんかよ」
「あの人を襲っていた者は…身内だったのでな。我等の匂いには敏感で、他人に頼むしかなかったのだ。恥を晒すようだがな」
「ちょっと待て、ここのは人を襲わないとか言ってなかったか?」
「屁理屈になってしまうが、完全などこの世には無い。ここで修行し力をつけ、それを人助けのためにと最初の頃から教え、導きしも…手に入れた力に溺れてしまう愚かな者は居るのだ」
「それがよくいう、狐の低級霊だったり地味な今回みたいな妖獣の狐だったりするのか」
「さよう。力を入れて、完全にものにしておらず外に出て暴れる。情け無い話だ。しかし、危険なのは時々おる力をしかと身につけてから、暴れる者だ。本当に教えるというのは難儀な事よ」
「まぁ、うん。とりあえずお宅のヤツらが馬鹿してたら同胞だろうと消滅させるからな」
「もちろんだ、それは当たり前な事。わかっておる」
「で、本題なんだけど。わざわざ俺を呼んだ理由は?お礼を言いたいって聞いて来たけど。言われたからもう帰っていいの?」
「実は報酬の件でな」
やっぱりそうか。
「そうだ、その子の寿命を報酬としてたな?」
「そういう契約だからな。でも、どうしてくれんだ?あのチビ狐気がついたら居なくなってたぞ?本当に時間カウントしてたのか?」
「しておらぬ」
「おい、ふざけんな!どうすんだよ!」
「だから、ここに呼んだのだ。お主の望みを聞こうと思ってな」
望みだと?んなもんいきなり言われてもな…。ていうか、寿命以外の報酬受け取ったら怒られるし。いや、ていうか妖怪とこんな契約ってどうなんだ?
「先程、最初に我と会った時に悪魔とか言ってたの」
「…それは、お前らには関係ない」
「しかし、少しばかりなら手伝えるのではないか?それに、その者が人間に危害を加えるのならば我等にも関係ないわけではない。いつかは相対する事になるかもしれんからな」
「少し考えさせろ」
「良かろう、少し休憩だ」
外に出て考える。確かにもし手を貸してもらったら、あの悪魔を殺せるかもしれない。しかし、あの悪魔自体がいつ現れるかもわからないうえに、あの白狐ってヤツが手を貸してくれるならまだしも、他のヤツだったら勝てる気がしない。たった1体の馬鹿やらかしたヤツを駆除しただけで、トップが動くか?
「悩んでいますね」
「またその姿になってんのか」
「こちらの方が話しやすいかと」
「お気遣いどうも、なんで嘘ついてた?」
「この姿ですか?」
「その姿は警戒されない為だとして、なんで飯綱使いとか言ったんだ?」
「いえいえ、嘘でも無いですよ?私達にも階級がありまして、下の階級の者に指令などを出せますから。ほら、嘘でも無いでしょう?」
「まぁ、うん?そうなのか」
「それで、どうするおつもりですか?」
「質問なんだが、もし俺が今ヤバイと思ってる悪魔と出会った時に力を貸してくれるってのは、一緒な戦ってくれんの?」
「そうですね、命をかけて貴方を守りそして、倒すと誓いましょう」
「…重いな。まぁいいや。その闘ってくれるのって、あの白狐って主さんじゃないんだよな?流石に」
「白狐様はここから離れられませんので、無理ですね。というよりも白狐様はここそのものみたいな存在ですので、外に出るという概念はありません」
まぁた、規模のデカい話なことで。
「じゃあこの神社そのものが白狐って感じなのか?」
「簡単に言うとそうなりますね」
「やっぱ、寿命貰った方がいいんだけどなぁ」
「何故ですか?」
「俺と戦った悪魔が、クソ強いから。白狐くらいじゃねぇかなって思ったの戦えるの」
「フフッ」
「何?」
「夜夜刺様、もし手助けの契約を結ばれましたらその相手はこの私ですよ」
「はい?もう完全に駄目じゃん」
「試しませんか?」
「何を?」
「少し手合わせをしませんか?そしたら考えが纏まるかもしれませんよ?」
何をいきなり言ってんだ?手合わせって…。そんなこと言われてもな。そんなに契約結びたいのか?
「わかったよ、手合わせしよう」
「ありがとうございます、それではこちらの修練場へ」
修練場へ案内され、構えを取る。テキトーに終わらせるか。
「そういえば、私は失礼な事をしていましたね。名前を申していませんでした、私は八尾狐。見ての通り尾が8本あります。未だに天狐になれていない、空狐ですが。よろしくお願いします」
尻尾が出て、名前を名乗った時。充分にコイツも化け物レベルじゃねぇかと舌打ちをした。