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調査中、俺は一軒の店に寄った。そこは切られた肉を出し、人に提供する店だ。出された側はその肉を焼き、食べてしまう。そう、焼肉屋だ。だって、お腹減ってやる気でねぇんだもん。それに、あの後周囲を警戒したけどなんの痕跡も見つけられなかったし。
「すみませーん、この肉肉コースの3人前お願いします」
「はい、かしこまりました」
とにかく、腹ごしらえしてから探そう。
それにしても驚いたなぁ、しんみりしてたら叫び声からの死体だもんな。一撃で命取られたらこっちは仕事にならんというのに。でも、斬られてたって事は幽霊系じゃないんだろうな。物体系の化け物、なんだろうな〜。綺麗に斬られてたし刀の化け物?ウーン。
「お待たせしました」
「お、来た来た!いただきます」
うん、美味い!肉の旨味が身に染みるねぇ。いやぁ、焼肉屋は正解だな。
えっと、なに考えてたっけ?そうだ、刀の化け物だった。あんなにスッパリ斬られて…斬られてたよな?でも、なんで傷口から、血が周りに出てなかったんだ?あんなに斬られたら、血溜まりできるよな…。肉を食べながら、考え込む。すると、目の前に女性が座った。
「あの、席間違えてません?」
女性はこちらを見て。
「いいえ、祓い屋の貴方に依頼がありまして来ましたので」
依頼者かよ、てかなんで、俺がここに居るの知ってんだ?そもそも、祓い屋なのも知ってるし…。絶対に変な奴だろ、こいつ。
「あんた、なにもんだ?」
「失礼しました、私はただの飯綱使いです。今回は私のミスのお手伝いをお願いしたく参りました」
なるほどね、あのちっこい狐の使い手か。そいつらに探させたな、俺の事。
「ミスって?」
「ちょっとしたミスで私が扱っている1体の狐を、管に回収し忘れてしまいました」
「俺、ペット探しますとかしてないんだけど」
「ええ、探すのは探してほしいのですが、見つけたら殺してください」
「はぁ?」
ちょっと待て、こいつらにとってあの狐って商売に必要なモンじゃなかったか?
「ここ何日間で、人が斬られて殺されているのは知っていますか?」
「さっき、そこで死体見たぞ」
「やったのはその逃してしまった狐なんです」
「あんなちっこいのが?」
「逃げると操作から解放されて凶暴化し、血に飢えるんです」
「そんな危ない奴を…逃しちまったのかよ」
「ええ、だから困っていまして。なので、協力をお願いします」
んじゃあの死体の周りに血がなかったのは、吸われたってか…吸血鬼じゃん、それ。
「依頼受けても良いけど、報酬分かってる?」
「ええ、存じております」
「そしたら一緒について来てもらって、別空間に入って倒すまでの時間×年の寿命っていう面倒くさい作業なんだけど」
「それでしたら、この狐を連れて行ってください。探索にも役立ち、別空間内での時間もこの子でカウントできるので、討伐後にその分私から寿命を支払います」
「そうか、じゃあ契約成立な。俺の名前は夜夜刺。よろしく」
「ええ、よろしくお願いします」
名乗らないのかよ…。
そうも思いながらも、支払いを済ませて店を出た。よし、探すか。どこにいるかな〜。
「キュッ」
「あ、ちょっと」
借りた狐が何処かに向かう。もしかして、そっちに居るの?見つけるの早いな。
「キュッ!キュッ!」
「…お揚げ?」
「キュッ」
なんだろうか、これを買って罠を仕掛けろと?とりあえず買った。すると。
「キュッ〜」
お揚げを食べられた。食いたかっただけかよ!
「お前な、逃げ狐探さないといけないのに何食ってんだよ!」
「キュッ」
何言ってるかわからね。しかし、そんなの知らんって感じで食ってる。
「それ、食ったら探せよ」
ようやく食べ終わり、また動き出す。だか…行く先々食べ物屋ばかりって…。
「お前!食いしん坊か!つっかえねぇ〜」
「キュッー!」
そんな言い合いをしていると。
「イッテェー!」
そんな声が聞こえた。
「ちょっと犠牲者じゃねか!?」
急いで向かうと、別空間の中で片腕を抑えて蹲る男と、目の血走った大きな狐が居た。
「なんか、デカくね?」
「キュッ」
へー、逃げるとデカくなるのかな?それとも栄養たっぷりと摂取したから?
「キュシャァ」
現実逃避してる場合じゃないな。
「おい、あんた。簡単に聞くけど助かりたいなら寿命を少し貰うけど良いか?このままだと死ぬぞ?」
そう蹲る男に向かって言うと、頷いた。なので、仕事だ。
「おい!このデカ狐、往生せぇや!」
そう言って糸を絡ませていく。
「キュシャァー」
「そんな、暴れんなよ。もう捕まってんだ」
俺はそのまま狐の首を落とした。弱いな、予想より楽な仕事だわ。
「血とか吸ってんだっけ?体消滅する前にカプセルに封じとこ。おい、あとあんたはちょっと血を貰うからな」
さて、これで依頼終了。後はあの狐と一緒に…ん?どこいった?
「おーい、チビ狐〜どこにいるんだ?」
出てこない…え?逃げられた?嘘だろ…。
その後も探しに探したが見つからねぇ、クソォ…。報酬貰ってねぇんだぞ!
「倒していただけましたか」
「あ、居た!なんで逃げた」
スッと現れた飯綱使いの女。
「逃げていませんよ」
「じゃあなんで、使いの狐消した」
「…どうぞ、こちらへ。お話がありますので」
そう言って女はどこかに歩いていく。
「どこに行くんだよ」
「ちょっとしたところですよ」
全てが謎のままついて行くしかない、報酬貰えてないし。一瞬、血を勝手に取ってやろうかとも思ったが、相手が相手だからなぁ。もし変なことを仕掛けてくるなら…覚悟しろよ。