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夏がいく
夏がいく
ミンミンゼミを連れて 夏がいく
あの青い空に立ち上った入道雲に 野球部の真摯なかけ声が響いていた時
光る夏を謳歌していた彼らと共に応援していた 熱い闘い
泥くさい正義や嫉妬 コンプレックスや友愛
焼けつくような思いやひりつく絶望
そんな季節の何もかもを連れて 夏がいく
夏がいく
カナカナと寂しい鳴き声とともに 夏がいく
夕暮れのホッとした風が墓石の間を通り抜けた時
かたわらで線香を灯す連れ合いと共に思いを一つにした 静かな祈り
もうとうに諦めた夢と理想 それと引き換えに手に入れた小さな幸福
毎夜、鳴きかわす虫の音のように増えていく孫との思い出
そんな季節の何もかもを連れて 夏がいく
夏は思う
後いくつの季節を連れていけるのだろう?
あの日、連れていった季節は、どこで何をしているのだろう?
ふっ、答えは何処にもあるまいに
ただ目の前の日々を見据えるのみ
夏がいく
幾多の季節を連れて 今年も粛々と夏がいく