第9話 胎動
海斗たちの住む辺境地方の片隅で…
「はぁ~、なんでこんな辺境に俺たちが来なくっちゃならないんですかぁ~~?」
「仕方がねぇだろ、上の決定だ。俺たちはそれに従うのみだ」
「そうですけどねぇ~」
「それにこの地には我々の探し求める”遺物”があるそうじゃないか。ならば調査しそれを獲得することは我々の本懐へとつながるんだ。そう思えばこんなところに来るのも悪くはないだろう?」
「うへぇ、出ましたよ。使命感…。まぁ、ないとは言いませんけど、俺っちとしては楽しく毎日を刺激的に過ごしたいわけですよ、知ってるでしょ?旦那も」
「そっちの”刺激的”な方はもう一つの任務で果たせばいいだろう」
「あ!それ言っちゃいます?楽しみですよね~、何人くらいなら持って行っていいんですかね?」
「ほどほどにしろ。お前も人を動かせる立場の人間だ。感づかれるようなことはするな」
「ははっ!抜かりはないようにやりますよ」
「だといいのだがな…」
「お、やぁっと街か、ささっと終わらせて本拠地に戻りたいですね~」
「まったく…」
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辺境伯の住む都市にて…
「おい、今度は隣の村の娘が消えたそうだぞ」
「おいおい、またか」
「勝手に森へ入ってしまったとかじゃないのか?よくある話だろう?」
「いやいや、さすがにここ数年森の討伐隊が組まれるようになってからはそういうことも減っただろうが」
「まぁそうだけどよぉ」
「それにな、どうやら辺境伯のところのお嬢様も何かあったらしいぞ?」
「なんだと?そんなこと本当か?」
「さあな、でも最近屋敷の警備が厳重になってきてるって話だぜ?なにかあるのは間違いないだろうよ」
「こんな辺境できな臭いこったな…」
「まったくだぜ、うちの上さんも攫ってくれねぇかなぁ~」
「ガハハハ、それならうちのも頼むぜ!」
「おいおい、知らねぇぞそんなことばっか言って…」
「こんなしけたところで飲んでる俺たちのことなんか誰も気にしちゃいねぇよ!」
「悪かったなしけててよ…」
「おいおい旦那ただのよくある言葉のやり取りだっての、気にしなさんなよ!」
「今日はつけ無しだからな」
「「「まじかよ!?」」」
「だからしけるんだよ、うちが…」
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とある夜に…
「おい、いい加減やりすぎだ…」
「えぇ~、まだまだ足りないでしょっ!俺たちはここの《《開放》》もやるんでしょ?だったらもっといないと大変じゃないですか、旦那ぁ!」
「足がつきかけてる、もう潜るぞ!」
「まじかよ、かぁーーっ!全然足りないっての~~」
「いいから行くぞ、お前たちももうこいつの指揮に従う必要はないぞ」
「はいはいはい、分かりましたって、行きます行きますよ~」
遅効性の毒のように、静かにじわじわと何かが動き始めていた。