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二十話 さよならとありがとう

(心にもないことを言ってしまいました……)


 覇気のない面持ちでアンジュはヨロヨロと外を彷徨っていた。

 精神的に疲れたせいなのか先ほどから肉体もないのに身体が気怠く熱っぽいような感覚に襲われている。


 まさかレイヴィンに嫌いだという日が来るとは想像もしていなかったが、我ながら迫真の演技だったとアンジュは思っていた。嫌われてしまったかもしれないけれど、これでもう彼が心配して追いかけてくることはないだろう。


「……これでいいんだ」

 自分が振ったせいで死んでしまった亡霊に付き纏われて罪悪感から無下にはできない……もしレイヴィンがそんな心情だったなら申し訳ないし、そんな関係を続けるのはアンジュが嫌だった。

 勇気が出せずレイヴィンの口から直接その事を聞くことはできなかったけれど。


 憂鬱な気持ちのまま、透けている自分の両手をぼんやり眺めため息を吐いた。

(私、いつまでこの状態なのかしら)

 セラフィーナから生前の話を聞くことはできたけれど、記憶が戻ったわけではない。いつまでも転生できないのはそのせいなのだろうか。

 このままでは、一人ぼっち亡霊としてこの世を彷徨い続けることになるかもしれない。

(一人ぼっちは嫌だな……)


「はぁ……」

 それにしても身体がだるいような、重たいような、浮遊しているのも辛くなってきたアンジュは休める場所を探し取りあえず城の屋根の上に腰を下ろした。


「よっこいせ……ふぅ」

 どうしたのか自分でも分からないけれど、なんだか意識まで朦朧としてくる。

 ゴロンと寝転んで空を眺める。いつもより星空が少し近く感じた。


(あれ……なんだろう……前にも、この景色を、私は見たことが……)


 そこでアンジュは、意識が途絶えた……



◆◆◆◆◆



「っ」

 あれからどれぐらい時間が経っていたのか。いつの間にかアンジュは眠ってしまったようだった。

 なにか夢を見ていた気もするけどよく思い出せない。

「ふぅ……カゼかしら……」

 目覚めると先ほどよりも気怠く辛かった。亡霊でもカゼを引くものなのかわからないが。


 ぼんやりとした思考のまま屋根からの景色を眺める。薄っすらと遠くの空から闇の色が薄れ朝の光が差し込み始めていた。まだ完全な朝ではない。夜と朝が混ざり合った空の色。

(レイヴィン様の瞳の色みたい)


「もう一度だけ……会いたい、な」

 決別しようと自分で決めたことなのに、なんでこんなに寂しいんだろう。


(一目だけ……この時間なら寝ているだろうし、寝顔をチラ見だけなら……ハッ、だめだめだめ!)

 誘惑に負けないようぶんぶんと首を振って邪念を払う。

「もう使い魔は卒業したんだもの」


 青に近い菫色の瞳を思い出し空に手を伸ばす。

 なにも掴めない手を握りしめた瞬間、手が光の粒子に包まれ驚く。

「な、に?」

 最初、朝日が昇りはじめた影響かとも思ったが違うようだ。痛みを感じない。


(ああ、そっか……私、ついに……)


 自分にも天からの迎えが来たのだと悟る。この倦怠感もすべてそのためだったのだろうと。


 朝が近付き空が明るくなってくると、アンジュは眩しくて目を瞑った。

 これでようやく全てから解放される。次に転生するのはどんな人生だろうか。

 今度は失恋して死んじゃうような結末じゃなくて、大好きな人と共に人生を歩んで生涯を終えたい。そんな事をぼんやり考えた。


 もうこのまま消える覚悟はできている……はずだったのに。


 瞑っていた瞼の裏に浮かんできたのは、なぜだかこちらを睨むレイヴィンの顔だった。

「レイヴィン様……」

 ようやく転生の輪に戻れるのに、こんなに苦しいのは彼のせいだ。

(でも……少しの間だったけど、一緒に過ごせて楽しかった)

 生前も死んで記憶をなくしてもまた同じ人を好きになるなんて、一人の人をそれだけ想えた自分の気持ちにを大切にしたい。そして恋した相手が彼でよかった。


 薄っすらと目を開くと自分の身体が先程よりも薄くなり、小さな光りの粒子たちが身体全体を包み込んでいた。


(レイヴィン様……さようなら。ありがとう)

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