十二話 灯台での決意
近づいてくるカラスをぼんやりと眺めていたアンジュだったが、それが目の前に羽を広げ降り立って思わず「きゃあっ」と悲鳴をあげた。
そのワタリガラスは先程の騒ぎを起こしたカラスとは違い足になにか付けていて、レイヴィンがそれを受け取ると柵に止まり大人しくしている。
「この子もレイヴィン様の手下なの?」
「こいつは協会のカラスだ」
協会というのは、レイヴィンが所属している怪盗協会のことらしい。レイヴィンは受け取った手紙を広げ文字に視線を滑らせる。
そこには協会以外の人間が目にしても内容が分からないよう、どこの国の文字とも言えない暗号が並べられていた。
アンジュはもちろんチンプンカンプンだ。
「へー……なるほどな」
手紙を読み終えたレイヴィンはどんな術を使ったのか、手の中で紙を燃やしカラスの足に青い紐を結ぶと空に飛ばした。
「今の火はどうやって!? レイヴィン様はやっぱり魔術師なの?」
この大陸では特別な精霊の祝福を受けた僅かな人だけ力を持って産まれてくる。
その選ばれた者たちは鍛錬を積み知識を身につける事によって魔術が使えるのだが。
「さあな。怪盗の企業秘密」
レイヴィンは肯定も否定もしてくれなかった。
「そんなことより、依頼がきて盗むものが一つ増えた」
「えっ!」
「今来た協会からの指示によると、ウェアシス城のどこかに歌妖術の力が宿るオルゴールが隠されているらしい」
――歌妖術
それは魔術に似て非なるモノのことだ。
魔術が精霊に与えられた個々の才能の力ならば、歌妖術とは血筋によって一族に引き継がれる力。
魔術は魔石を使い自然の力を操るのに対し、歌妖術は魔力の籠った歌声と旋律により生物を操る。特に感情の繊細な人間を惑わすことに長け恐れられた一族だ。
ただ歌妖の一族が暮していた里は、その力を恐れたどこかの国の暗殺者たちによって全滅され、その力も代々伝えられていた歌も正統に受け継いでいる者は今ではいないのではないかと言われている。
自分は歌妖術使いの末裔だと言い張る輩は後を絶たないが。
「歌妖術が籠められたオルゴールが本当にあるなら、相当の価値がありますよね」
「それも都合の良いことに、そのオルゴールに籠められている音色は子守唄らしい」
なんの都合が良いのだろうとアンジュは思ったが。
「セラフィーナには、儀式本番で用意された歌の代わりにその子守唄を歌ってもらう」
「えっ」
「その力で全員を寝かせてしまえば、逃げるのも容易だろ」
「でも、オルゴールを手に入れたからって、その旋律を歌で使えるのは一族の血を継ぐ方だけですよ?」
「セラフィーナは本物だ……俺は、あの力があったから今も生きてる」
(それって、セラフィーナ様が一族の生き残りということ?)
「その前にどうにかしなくちゃいけない問題もあるが……それは俺がなんとかする」
レイヴィンはなにやら呟き頭の中で策を練っているようだ。
「レイヴィン様、どうか……危険なことはしないで」
思わず心配でそう頼んだけれど。
「大丈夫。必ず成功させてみせるから、この作戦で行く。いいな?」
(でも……そんなこと本当に大丈夫なの?)
見つかるかも分からないオルゴールともう全滅したと言われる一族の力を策に入れるなんて。
レイヴィンの事を信じていない訳じゃない。だがアンジュにはこれがとても無謀な作戦に思えて、できるなら止めたかった。けれど……彼はやると決めたらやるのだろう。
(なら、私はレイヴィン様について行くだけ)
それでも駆け落ちに失敗して彼が処刑される所なんて見たくない。それならば、彼の手助けをすることが自分が唯一彼の役に立てる愛情表現なのかもしれないとアンジュは思った。
(私じゃ、使い魔としてしか傍にいることはできないから……)
ならば自分なりの方法でこの想いを貫こうと。
「いいだろ?」
「……はい」
「決まりだな」
清々しい声で頷いたレイヴィンとは逆に、アンジュは複雑な思いを閉じ込めそう決意したのだった。




