ヒロインは梅干しが好き! (別に酔ったりしないっちゃ)
シャロン少尉は左側の壺の蓋をキュポン! と外す。するとクレアがササッと自分の鞄から手の平大の皿とお箸を取り出してシャロン少尉に差し出した。
「はいお姉様、どうぞ」
「ありがとうクレア、クレアが来てくれなかったら手掴みで食べる所だったわ」
「えへへ、どういたしましてお姉さま♡」
このシソの香りはー、梅干しかっ!?
シャロン少尉は壺から大粒の見事な梅干しを三個取り出してお皿にのせ、一粒ヒョイッと口に放り込んだ。クーッ、見てるとツバが出てくる。
「クーーッ、スッパイ! でも美味しい。やっぱり紀州二十年物の梅は一味違うわ」
「良くこんなところで食べられますわね、シャロンさん」
純日本風な顔立ちをしているのに真弓少尉は梅干しが嫌いなのか?
「いつでもどんな所でも食べられるのが、梅干しの良いところなのですよ。ねぇお姉さまぁ」
「そうよクレア、ご褒美に一個あげちゃう。はい、あーん」
シャロン少尉がクレアの目の前に梅干しを差し出すと、クレアはあからさまに焦りだしした。
「あ、いや、お姉様、クレアは梅干しが欲しくて言ったわけでは、アタタタ、急にお腹がー」
「それはいけないわ、梅干しは薬でもあるのよ。ほら、あーんして」
クレアはなんとも言えない顔になった。へへっ、ざまあ。
「うっ、うー、フーッフーッ、あ、あー……ん」
クレアは苦渋の決断をして口を開けた様だ。
しかし私の目の前でそんなに見せられたらツバが出て来てー、「ごくん!」あ、喉が鳴ってしまった。
「あら、宮崎さー」
「もう・・・・・・、さんでいいです」
「うん、宮崎さんも食べたいの? 食べますか?」
クレアはここぞとばかり。
「あ、あーやっぱりブタさんですね、お姉様の梅干しが食べたいのですよ。クレアは我慢しますのでこの子豚さんに食べさせて下さい」
「ブタブタ言うな! はい、頂きます。実は好物なんです、田舎に帰ったらいつもご飯にのせたりお茶に入れたりして食べてるんです」
シャロン少尉が持った箸からポロリと梅干しが落ちた。慌てて手で受け止める。
「うわっと、ど、どうしたのですか? あ、体が動く」
シャロン少尉はポロポロト涙をこぼしていた。
「ーーそうなんです! 梅干しは単体でも最強なんだけど、色んな食べ物飲み物にも合うんです!」
「えっ、あ、そうですね」
しまった、シャロン少尉の琴線に触れてしまった様だ。
「こんなに美味しいのに真弓さんや麻耶さん、それにクレアまで梅干しを食べてくれないんです!」
「梅干しなんてスッパイだけよ、ハッキリ言って嫌いよ」
「麻呂も好きくないでおじゃる」
「クレアは、クレアは・・・・・・、嫌いじゃーないー、ですよ?」
クレアが涙目になっなって震えてる、そんなに嫌いなのか?
「もういいです! では宮崎さんには取って置きのをー」
シャロン少尉はお皿を膝の上に置くと、今度は右側のツボの蓋を外してツボの中に箸を入れた。
「いえ、もう頂いてます。ほら」
先ほど箸から落ちた梅干しをシャロン少尉の前に差し出すと、信じられない光景を見た。横目で手の平にある梅干しを確認したシャロン少尉は、なんと私の手の平からジュポ、と音を立てて直接梅干しを食べたのだ! ご丁寧に手に残った液体まで舐めとってくれた。
「んー、こほっちの方が絶品よ、はい、あーん」
「お、おおおおおおおおっ!」




