ヒロイン登場
クソ、汽車の煙を見ただけで体が思う様に動かないなかて・・・・・・。
「よっ、はっ、とりゃ、なんと」
泳ぐ様に両手を使って前に進もうとするがダメだ、足が前に進まない。もう少しで駅だというのに。こうなったら得意の柔道でー、うりゃ! うわっ。前受け身で進もうとしたがダメだ痛ーくないな。丸い体系になってからいやに体が弾む。
体をさすりながら立ち上がる時、私の直ぐ後ろに人影があるのに気付いた。あ、しまった、駅前でこんなことやってたら変だし邪魔だよな。しかし、その人影は変なことを口にした。
「楽しそうね、駅前で何をやってるの?」
「えっ、なにをってー、うおわっ!」
いきなり目に飛び込んできたのはー、女神だった! キラキラ光る肩の位置で綺麗に切りそろえてある金髪、それに吸い込まれそうなブルーの瞳! 何でこんな所に降臨しーあ! が、外人さんか! アメリカ人か? でも顔の造りは日本人ぽい。えと、ワタ、ワタシえ、英語ー。
「何をやってるの? 上官の質問に答えなさい」
日本語だ! えっ、上官? 階級章はー、ゲッ! 肩に輝くその階級章はー。
「し、失礼しました少尉殿!」
姿勢を正して脇を締めた海軍式の敬礼をする。良く見ると私とあまり歳は変わらないかな。やはり外人さんは色が白いなぁ。
「はい、ご苦労さん。で、何をー」
敬礼を軽く返してくれた女神ー、いや少尉の後ろから声を掛ける女性が居た。
「どうしましたのシャロンさん、早くしないと汽車に乗り遅れちゃいますわよ?」
わっ、もう一人居た! うおわっ、この子はー規格外だ、ストレートの黒髪を腰まで伸ばした純日本風の女性いや、二人ともまだ女性になりきっていない少女と言っていい。どう見ても十四五才ぐらいかな? 黒髪の子は目元が少しキツい。
二人とも白と赤の巫女服をアレンジした海軍夏の制服を着込んでいるのだが。シャロンと呼ばれた方はまだいい、アメリカ人ならあり得る胸の大きさだ。即ちデカイ! メロンか? マスクメロンが入っているのか? だが、後から来た黒髪の純日本風な顔立ちをしているこいつは何なんだ? 大玉のスイカでも入れているのか? 制服がはち切れそうじゃないかっ! けしからん、動くたびにタワワン、どころかドワワン! と揺れやがる。
「何処見てますの? ずいぶん露骨な殿方……、まだ子供なのに将来が心配ですわ。フン」
し、しまった、上官の胸をついガン見してしまった。
「ごめんなさい真弓さん、この少年兵が気になって……」
「ッー、お言葉ですが少年兵ではありません! 宮崎二飛曹であります」
金髪の少尉はまだ軍の階級章を良く覚えていないのか、ジッと私の階級章を見つめてから。
「ホントだっ! ごめんなさい。えっと、宮崎ー」
「二飛曹です」
「あ、本当にごめんなさい宮崎二飛曹さん」
さんは、いらないんだけどな。
「もう、シャロンさんたら。だけどわたくし駅前で変な踊りをする人を初めて見ましたわ。関わりたくないので先に行きますわよ」
「クックック、実験材料にはちょうど良いでおじゃるな」
うお! また後ろに変なのが居た! 平安時代から抜け出て来たみたいな男の陰陽師の服装で烏帽子を深くかぶって、おまけに銀色の仮面を付けて顔を隠しているが、私より少し背が高いぐらいの少女に見える。仮面は目の周囲を隠しているだけなので口元が見えるかと思ったら、すかさず扇子で隠されてしまった。
二人は蒸気に煙る駅の中へと入って行った。
「それで二飛曹ということは、操縦士なの?」
まだ絡んでくるのかこの少尉は。でもコテン、と小首を傾げるしぐさは……、可愛い。
「はっ、長崎の大村航空隊に配属が決まって移動中であります」
「えっ、大村航空隊? 私達もそこへ向かっているところです。私はシャロン、加山シャロン陰陽特務少尉です。先ほどの質問ですがなんで駅前で踊っていたのですか?」
「っー! 踊っては、……踊ってはいません」
「では何を?」
「それは……、言えません」
言えるわけが無い、駅から流れ出る蒸気や煙が恐いだなんて。
シャロン少尉はその青い瞳でジッと私を見詰めると。
「いいでしょう、理由は聞きません。ただあなた、宮崎二飛曹は汽車に乗らなければいけないのに乗れないのですね?」
「・・・・・・はい」
「なら話しは簡単です」
シャロン少尉はそう言うと胸圧で変形している胸ポケットから一枚の紙を取り出した、良く見ると人型に切り取られている。少尉はそれを柔らかそうな口元に当てると何か呪文を唱えて最後にフッ、と息を人型にー。
「あっ、飛んだ!」




