あれとこれ
「あー、もう! せっかくお金が貯まったのにこれじゃ『これ』買えないじゃない!」
「クミちゃん声が大きいよ。それと仕方無いよ、最近『これ』の事故多いし・・・・・・、それと僕が四万貯めてクミちゃんが一万だよ」
小学校からの帰り道十才ぐらいの男の子と女の子が並んで歩いている。同じ水色の帽子に女の子は赤いランドセル、男の子は黒。
女の子の右側に寄せたサイドテールが歩くリズムでユラユラと踊っている。見る人が見たら魔法のステッキをわたしたくなるぐらいの少女ではあるが、隣を歩く大きなメガネをかけた男の子に言わせると完全なる詐欺らしい。
「なによ賢治、男のくせに小さいわね。全額俺が出してやる! とか言わないの? ねえ言わないの?」
「ぜ、全額!?」
女の子に全額と言われて目を白黒させているのは宮下賢治、小学五年生。そしてニヤニヤしながら賢治の横腹を突っついてる女の子が菅原久美子同じく小学五年生。
二人はお隣同士でいわゆる幼なじみというやつだ。
「もういいわ、それよりどうやったら『これ』を買えるのか相談しましょ。あんたん家で」
「ええっ! また僕ん家? たまにはクミちゃん家でー」
「ダメよ、家にはパパもママも居るもの。あんたん家は共働きだから今誰も居ないでしょ?」
「う、うん、そうなんだけど・・・・・・。あ、じゃあ久々にマージャンやろうよ」
久美子の家では家族麻雀をやっていた、賢治は久美子の兄が不在の時に時々卓を囲んでいたのだ。
因みに囲んでいる時久美子の父が何時も一緒にいる賢治を気にして。く、久美子は賢治君と将来け、結婚! な、なんかしたりして……。と言いながらリーチをかけると。
「んー、賢治はー、場に三枚出ている風牌かな」
「ん? その心は?」
「安牌として取ってるの、これで一発なしね~」
久美子は四枚目の風牌をペイ、と放り出す。
しかし、対面に座るママが動いた。
「フッ、久美子あんた……、背中が煤けているわよ」
ママさんは吸えもしない煙草を片手に持って顔の前でプラプラさせる。
「えっ?」
ママさんの牌がパタパタと倒れて行く。
「ロ~~ン、国士無双! 役満!! これで半年間お店の手伝い、お小遣い月10円よ!」
「そ、そんなー、ガチョ~~~~ン!!」
「……が、ガチョーンってお前、何歳だよ?」
「お、おと~さ~ん、いいえ、お父様~。スリスリ」
「クッ、今更そんな甘えても何……、せいぜい腐りかけのバナナぐらいしか出ないぞ」
「チッ」
話は戻り。賢治は立ち止まり提案したのだが。
「なにやってんの、いやよ賢治弱いもん。ちゃんとお菓子用意してるでしょうね?」
「や、やっぱり・・・・・・、また僕のおやつー」
「なによ、文句あくの?」
「・・・・・・いえ、ありません」
「よろしい。フフン」




