飛べない子豚を飛ばしてみよう♡ その三
その夜遅く。
ユサユサ、ユサユサ。
「う、うん? ……どうしたんだよ式」
どうやら式は私の背中から離れて布団の横から私を揺すっている様だ。加藤さんが造ってくれたのだろう、普通の雑魚寝隊舎と違い以前取っていた下宿の部屋みたいになっている。
なんとか目を開けて式を見ると。
「うわ! シャロン少尉、何でこんな所に!」
海軍では多少明るい所でも寝れるように訓練をするので、部屋を真っ暗にしない。赤い非常灯に照らされたシャロン少尉が私を覗き込んでいた。
式神を奪った私が憎いのか、シャロン少尉はジーッ、と私を見つめている。いや、これはー良く見ると顔が、全体が平たい。横から見るとペラペラだ。
「お前……、式か?」
私がそう聞くとシャロンー、いや式はコクリ、と頷いた。喋れないのか何かを訴えるかのようにジッと涙目で私を見つめてる。
「お、おい、本当にどうしたんだよ。そんな格好して」
いくらペラペラでもシャロン少尉の顔で見つめられると何だか恥ずかしい。その時ー
べしっ。
式の顔の部分が近づき私の顔に当たった。
「えっ、なに? なにをしたの?」
咄嗟に式から離れると式はシャロン少尉の顔のままポロポロと涙を流し、ポフッ、と小さくなって元の人型になるとフアフアと浮いて窓の隙間から外へとー。
「あ、おいちょっと、どこへー、あ……、シャロン少尉の所へ帰るんだな。今のは挨拶代りだったのか?」
翌日、早速シャロン少尉に基地の運動場に呼び出された。後ろに真弓少尉と麻耶少尉を従えている、あの小生意気な従卒はいない。
「おはようございます、なんかー、怒ってます? シャロン少尉」
シャロン少尉が腕を組んで私を睨んでいる。怒ってる少尉もなかなかー。
「はい、怒ってますよ。朝気付いたら宮崎さんに憑けていた式神が帰ってました、式神からは悲しみの波動が伝わってきます、式神に何をしたのですか?」
「何もしてません! 夜中に起こされたんですけどシャロン少尉に式が化けていてー」
三人の少尉が同時に驚いた。
「私に化けていた!? それは本当ですか?」
「あり得ないでおじゃる、命じていない術をー、ハラ……」
「やはり宮崎様は陰陽師の才能がおありなのですわ!」
えー、私はまた何かやっちゃったのか?
「ほ、本当です。ペラペラのままでしたけど直ぐに小さくなって飛んで行きました」
「そうですか、一応信じます。まあそれはそれとしてー、宮崎さんの雲恐怖症を今から治療します。付いてきて下さい」
「い、いきなりですね。はい、お供します」
シャロン少尉はズンズンと運動場の真ん中へ歩いて行く。