それぞれの能力
結局解放されたのはあれから三十分後、駅で大半の人が下りてしまってからだった。
「真弓少尉、本当に申し訳ありませんでした」
私は座席に座り、ずっと真っ暗な窓の外を見ている真弓少尉に土下座をしている。シャロン少尉にお願いして動かしてもらった。他の二人も珍しい物を見るかのように私の周りに集まっている。
「もういいのです宮崎二……、いえ、様」
「様?」
真弓少尉はバッ、と私の方を振り返り見て。
「そうですわ、宮崎様は。今日から・・・・・・、色々準備が必要ですわ」
「真弓さん! 一体どうしたの?」
「こんな子豚をー、とうとうー」
「何とでもお言いなさい、宮崎様はわたくしの初めての方なのですから」
えつ、えっ? 私何かしましたっけ? あ、いろいろやっちゃってるか。
「おじゃ、面白そうだからそのままにしておくでおじゃる。クク」
「真弓さんがそれでいいなら……、いいのですけど」
えっ、シャロン少尉はー、私の意思は? いや、いやじゃ無いけど……。あれ? 背中がー、式神が震えている。
そんなこんなで長崎の大村まで一週間と三日かかってしまった、普通なら三泊四日で到着する所を……。
それは一重にシャロン少尉のせいである。
シャロン少尉は大荷物を担いだ行商人のお婆さんを見るたびに近づいて行き。
「その荷物、お持ちします!」
と声をかけまくるのだ、まぁだいたい断られるのだけど。お婆さんだけではなく汽車の窓から子供が迷子になってるのを見かけると、わざわざ汽車を下りて走ってその子供の所に行ってしまう。
夫婦喧嘩にも顔を突っ込むし……、私に声を掛けて来た理由を理解した。だけどー。
「シャロン少尉、なんで私にしているように術を使わないのですか?」
そう、私には術を使っているくせに他の人には絶対に術を使おうとしないのだ。術を使えば簡単にー。
「……宮崎さんは同じ海軍で行先も一緒ですから。だけど一般の人はー」
「シャロンさんは一度手痛い失敗を経験しているのですわ」
言いにくそうにしているシャロン少尉の代わりに真弓少尉が話し始めた。
「シャロンさん、わたくしがお話ししても宜しいですわね?」
「え、……いえ、私がお話しします」
「あ、そんな無理しなくても……」
「うん、まあ旅の暇つぶしですよ、聞いて下さい」
私は汽車に揺られながらシャロン少尉の話を聞いた。
「申告します! 加山シャロン少尉以下四名、ただいま着隊致しました。以上……、ありません!」
隊門で申告すると急拵えらしい木造平屋の隊長室に案内された、そこで元教官だった結城中尉に再会した。中尉は顔に火傷の跡があるとかで飛行帽とゴーグルをいつも着用している。
声や口元を見る限りかなりの美人だと踏んでいるのだがー。中尉はニッコリと微笑んで答礼する。
「ご苦労様。ウフ」
私達は隊長室に並び、隊長の結城教官ーじゃなかった中尉に到着の申告をすませた。
始めは大村航空隊に行ったけど、ここじゃない! と言われ場所を確認すると大村湾にある魚雷実験場の隣に新設された隊だった。
と言う事はー、水上機か?!
「あら~? シャロン少尉その子はー」
「あ、クレアはー」
スッと前に出るクレア。
「初めまして、クレア・サンダース兵長です隊長。シャロン少尉の従卒です。急遽決まりましたので書類は後から来ると思います」
クレアは言うだけ言うと列に戻った。
「そ、そう、それならいいわ歓迎するわね~。でー、あなた達の事はだいたい書類を読ませてもらったわ、でもー、紙だけでは分からないのでー、ちゃんとあなた達から自己紹介~? みたいに説明してほしいのぉ。良いかしら~?」
相変わらずお母さんみたいにゆっくり喋る人だなぁ隊長は。
「は、はぁ、あ、了解しました。先ずは私からー。私は加山シャロン陰陽特務少尉です。得意な呪術は式神を操る事です」
「式神?」
「この人型の札です」
シャロン少尉は胸ポケットから札を出して見せた。
「この札は大きさを変えられますし、人や動物に化けることができます。簡単な思考能力がありますので命令を与えておけば自分で判断し動くことができます」
「凄いです加山さん! 分身の術とかできそうですね?」
「できます」
おわ! できるのか、大勢のシャロン少尉……、見てみたい。て言うか一人欲しい。……ムフ。
「この、エロブタ! ドゲシッ!」
「痛---っ! クレア、お前はなんで弁慶の泣き所ばかりー」
「宮崎様、浮気は許しません。と言うかいつも言ってますが……、正直すぎます。まあ、そこも良い所。なのですが」
「え、また顔に出してた?」