プロローグ
注意!! 本編とは全く、これっぽっちも、小指の先ほども、猫の額ほども、スズメの涙ほども関係ありません!
私には夢がある。五十年間無かったが、いや、以前からあったのだが最近思い付いた夢だ。
その夢はトラックに跳ねられて美人の女神に「手違いでしたゴメンナサイ」と謝れてチートを貰って異世界へ、と言う一寸の勇気と運さえあれば叶うような簡単な夢ではなく、到底叶うはずもない正に夢のまた夢である夢なのだ。
後書きへつづく
薄暗く、雑多な商品が所狭しと並ぶ棚の奥から老婆が顔を出す。その手には見たことも無い文字が書かれた一見ゲーム機みたいな箱が握られていた。
老婆は二人の子供の前まで来るとニタリと笑い箱を突き出す。
「ふぇ、ふえっふえっふぇ。お嬢ちゃん、これが欲しいんじゃろ?」
「そ、そうよ、それ売ってくれるの?」
「クミ、やめようよ絶対おかしいよ、こんなに安いなんて」
「バカ! 何言ってんの、ケンは欲しくないの!?」
「そりゃあ、欲しいけど……、流行ってるし」
「なら迷う事はないわ! お婆さん、それ、ちょーだい!」
「ふぇーー、ふぇふぇ、まいどあり。お嬢ちゃん分かってるとは思うがこの事はー」
「ええ、大丈夫。ここは子供だけのないしょのお店」
「いや、ここただの駄菓子屋なんだけど……」
暗転。
昭和十三年 四月 九日
神奈川県横須賀上空 高度一八〇〇。
オレンジ色の練習機、通称赤トンボがゆっくりと飛んでいる。
私は宮崎精一、今年で一七歳になる。
今日は練習生となって初めての単独飛行。もちろん隊の中で一番最初の単独飛行だ。
「おっ、いいなあの雲ー。よし」
私は女の子のお尻みたいな雲に向かってスロットルを空ける。
ブオーーーー!
赤トンボの星形エンジンが吠える。
「そーれ突撃だぁ、ハハハハハー、おおっと」
雲を突き抜けた後、方向舵から足が外れて横滑りしてしまった。
なぜ足が外れてしまうのか、それはー・・・・・・。通常一個のパラシュートをお尻の下に入れるが私の尻の下には二個入っている。こうしないと操縦席から滑走路が見えない。
つまり方向舵に足がとどくギリギリなのだ。
同期からは、ここは小学校じゃ無いぞ。と良くからかわれるが、そいつ等は皆一本背負いで地面に叩き付けてやった。だが……。
だがこのままではダメだ、少しでも身長が伸びる様に飯を無理して沢山食べるようにした。都合がいい事に軍では食事はただで食い放題だ、海軍は特別食事にお金をかけている。
なので思いっきり食う、食いまくった。なのに、なのに全然身長は伸びなかった。縦に伸びずに横に伸びた。
そう、私はポッチャリになってしまった、操縦席に納まるか不安になるほどに。
今は以前ほどではないが、ポッチャリしたため一層健康優良児みたいに幼く見られる。クソ。
私はつま先でグッと方向舵を踏み込んで機体を安定させる。その時、私の瞳に黒い点が映った。
「ん? あれはー」
白い雲と雲の間に黒い、いやどす黒い雲がまるで鯨の様に空を泳いでいる。高度は同じか少し高い。
基地に問い合わせようにも練習機には無線なんか付いて無い。
私は好奇心にかられてしまい右足をグッと踏み込んでしまった、近付くにつれその大きさに圧倒される。
「大きい、最近就役した戦艦ぐらいはあるなぁ。もう少し近付いてー、どぁあっ!」
突然近付く私に向かって雲の中から巨大な蛇の頭が飛び出してきた、私の機に噛み付こうとその大きな口を開き迫ってくる。
「こなくそ!」
操縦桿を思いっきり倒して方向舵を蹴り上げる、なんとか機体を捻り蛇を避けることが出来たのは奇跡に近い。赤トンボは安定性はいいが敏捷な機体では無い、訓練をするためにわざとキリモミ動作(失速)させようとしても勝手に元の飛行に戻ってしまうぐらい。
「や、ヤバイ、こいっあもの凄くヤバイ!」
蛇は伸びきってしまったのかスルスルと雲の中に戻っていったが代わりに赤鬼が二匹、雲の中から顔を出した。
私は逃げるために急降下に入ったが機体がー、翼が折れるかもしれないが、そんなことを心配している場合じゃ無い。
鬼達は足下小さな雲を発生させスイスイと移動して、一向に降下しない私の機に追い付いて左右から翼の付け根を掴んだ。
「うわー! 何しやがる、放せこの野郎」
操縦桿や方向だをガチャガチャと動かしたが無駄だった、私の機は鬼に運ばれて雲の中へとー。
「や、やめろー、何をする気だぁ、う、お願いだからー、止めてー・・・・・・」
その夢とは、今月の生活費とか払い物などを一切気にせづに、思いっきり、パチンコをやりたい!! その一言に尽きる。
……今月、六万円も負けちゃった。テヘ、なんて言ってる場合じゃない! どうすんよ生活費、頼みのアイフルも限度額が近い。
あぁ、どうしよう。こんなに悩んでるのにもう一人の私がー。