敵機、儚クモ散リ行キ(後編)
君津の命令に、"秋月"CICにいる隊員の間に動揺が走った。
「命令とあらば、従うのみだ!」
と、山本に一言言い、
「対空戦闘用意!」
浦田は、CIC内の動揺をかき消すように、声を上げた。
そしてそれを聞いた山本も繰り返す。「対空戦闘用意!」と、
そうすると、全員に喝が入ったのか、
対空戦闘用意!」とまばらではあるが、繰り返された。
その直後─、
「敵機、ミサイル二発、撃ちました!」
射撃管制官、再起の強張った声が響いた。
浦田がレーダーに目を向ける。ディスプレイに、敵戦闘機を示すマーカーと、ミサイルを示す二つのマーカーが浮かんでいる。
「前甲板VLS、9番から11番、対空ミサイル発射用意!」
山本は命じる。
「目標データ、入力完了!」
射てば、ミサイルだけでなく敵戦闘機も粉々になる。パイロットはどうなるかもわからない。おそらく死ぬだろう。しかし、今は迷っている暇はない。
山本に向かって、浦田が首肯した。
「てぇーっ!」
迷いを振り切って、山本は叫んだ。
「"秋月"ミサイル発射!目標まで3マイル!」
"紀伊"CICのディスプレイに"秋月"が発射した3発のミサイルのマーカーが表示された。標的は、敵戦闘機と2発のミサイルだ。
敵ミサイルに、味方のミサイルが向かって行く。
接触した瞬間、4つのマーカーが同時に消えた。敵が発射したミサイル2発を撃ち落としたのだ。
「敵ミサイル撃墜!一発、敵機に向かいます!」
残った2つのマーカーが急速に接近する。
ドン─、という腹に響く爆発音と同時に、真っ赤な炎の塊が宙で膨らんだ。それは、艦橋にいる佐久間の頬を赤く染めた。
瞬きすら忘れて、敵機が墜落した海面を見る。
肌が粟立つような感覚が、胸の奥からせり上がってきた。それが怒りなのか、自分でもわからない
マーカーが消えたディスプレイを、"紀伊"のCICの隊員たちは、呆然と見つめていた。誰もが言葉を失っていた。




