[挿話] アルバートとミーナ
俺に初めての魔法が発現したのは、五歳の頃。先天魔法の発現時期としては、なんら不思議ではない。
魔法には大きく分けて三つの分類がある。生まれつき備える先天魔法、成長により徐々に発現する適正魔法、そして、非適正魔法だ。
歯が抜け始める頃に突然、先天魔法が発現する。そこから成長とともに適正魔法が発現し始める。
そして、歯が全て生え替わると、魔法の発現は止まる。それまでに発現しなかった魔法は、非適正魔法であり、生涯を通じて扱うことができない。
俺の先天魔法は爆炎系だった。そもそも、この国で爆炎系の魔法を扱える人間というのはとても珍しい。そのため、周りは俺に期待した。
しかし、爆炎系の魔法が発現してから、俺の魔法が発現することはなかった。
優等種として扱われたのも七歳まで。歯が全て生え替わった時、俺には劣等種の烙印が押された。涙すら出なかった。
自分が、本格的に周りと違うことに気がついたのは、小学生に入った頃だった。
皆が色々な魔法を披露する中、俺にはそれらの魔法を出すことができない。そして、爆炎系という変わった魔法を使う俺は、当然、友だちの輪から外された。一流魔導士という夢の話にも入ることができない。
ミーナと出会ったのも確か、その頃だったと思う。あいつは、その頃から化け物だった。十一系統の魔法を使いこなし、常に輪の中心にいたのを覚えている。
「爆炎系、すごいね」
俺が一人で魔法の練習をしていた時、そう声をかけてくれたのが、ミーナだった。自分の魔法に興味を持ってくれたことが、その時は何よりも嬉しかった。
ミーナも自分にはない魔法に興味を示し、俺も、そんな彼女といるのが楽しくて、ずっと一緒に魔法の練習をしていた。
子供が才能に憧れるのは、小学校低学年までらしい。あれほどミーナに憧れていた奴らも、その才能を忌み嫌うようになった。
だが俺は、何も考えずにずっとあいつの隣にいた。それが当然で、そこが自分の唯一の居場所だったからだ。
ミーナに嫌がらせをする奴には報復を。それを続け、やがては思惑通り、標的が俺に移った。その結果、毎日ケンカばかりするようになった。
人間というのは凄い生き物で、俺のように爆炎系しか使えない場合、他の分をそれで補おうとするものなのだ。
そのおかげか、俺は成長だけは早く、力勝負の子供のケンカに負けることはなかった。あいつを泣かせた奴らと本気でケンカし、その度に謝らせた。
今の俺が火力だけに偏っているのは、そのせいだ。
中学に入る頃には、火力だけではどうにもならなくなってきた。負けることも多くなった。
こちらが魔法を展開する間に相手は、各系統の防御方法を同時に準備できるのだ。技術力と、手数の差だ。
その差は火力だけでは埋まらない。だから俺は、速さを求めた。
父が略式詠唱を生み出したのはその時だ。親として、少なからず責任を感じていたのだろう。
ミーナを交え、二年間練習を続けた。
今思えば、その頃から俺は、ミーナに対して何か壁のような、距離感のようなものを感じていたと思う。
それが段々と膨れ上がり、三年になった頃から、ミーナとはあまり話さなくなった。本気でアリシアを目指すあいつに、合わせる顔がなかったからだ。
最近聞いたのだが、向こうは話したいこともあったらしい。だが、俺に対して、全てを拒絶する様な雰囲気を感じ、話しかけるのが怖かったらしい。
こうして今に至る。これが、俺のような偏った人間が生まれた過程である。
そんな俺を認めてくれたのは、会長で二人目だ。あの頃のように素直に喜べないのは、どうしてだろうか。その答えは、俺にはまだわからない。