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古代技術と爆炎の三流魔道士  作者: Uノ宮
入学編
6/62

争奪戦3日目

 昨日問題を起こしたとはいえ、あれだけで名前まで知られることはないはずだ。それに、あのとき生徒会の人間はいなかったはずだ。

「どうして初対面なのに名前を知ってるんですか?」

「実は、二回目なんだよね……」

二回目という言葉に、冷や汗が出た。まずい、思い出せ……どこで会った?中学の先輩か?


いや、違う。

そもそもミーナ以外と喋ったこと自体ほとんどない。喋っていれば間違いなく覚えている。

自問自答を繰り返すが、一向に答えが出ない。仕方ない、正直に言うしかない。

「……すみません。思い出せません」

「まぁ、こっちが一方的に知ってるだけなんだけどね」

よかった……。が、知られる機会にも心当たりがない。


 何か思い当たる節があるかどうかを思い出していると、彼女が続けた。

「実技試験の時、係りの人がいたでしょ?」

確かに、よく覚えている。思い出せば、その光景の中に生徒会の腕章をしている人はいる。その中の一人なら俺を見たことがあるかもしれないが、何千人も受験している中で特定の一生徒の顔と名前を覚えているなんてありえない。


「その時に?」

彼女は頷いた。どんな記憶力ですか。

しかし、仮に顔を覚えていたとしても、

「でも、昨日のあの場面にはいませんでしたよね?」

あの場面にはいなかった。見えていないわけではない。あの状況で生徒会の人間がいれば、間違いなく止めているからだ。

「校舎にいたけど、魔力反応で君だってわかった」

俺が知らないだけなのか、魔力反応で個人を特定できるなんて話は聞いたことがない。

「どういうことですか?」

返答はない。彼女は耳に手を当て、誰かと連絡を取っている。

「あー、ごめん。呼ばれたから、続きはまた明日ね」

ここまで話しておいて、また明日はないだろ。



 翌日のホームルームは、昨日のことでずっとモヤモヤしながら過ごした。昨日帰ってから魔力反応の論文を一通り調べたが、やはり個人の特定に関する論文はなかった。

ホームルームが終わり、急いで教室を出た。一刻も早く彼女を探し出し、答えを聞き出したい。



 勢いよく校舎を飛び出したところに、その先輩が立っていた。

「アルバート君、昨日の話の続きしない?」

探す手間が省けてよかった。二つ返事ではいと答える。

「ずっと気になってました」

「ここじゃ邪魔になるから、生徒会室いこうか」


 先輩に案内され、生徒会室へ。

会議室のような部屋の奥、来賓用のソファが並ぶ部屋に通された。腰掛け、出されたお茶をすする。

「なんで魔力反応でわかったか、だったっけ?」

「はい。昨日調べたんですが、やっぱりそんな能力ありませんでした」


先輩は、人には絶対に言わないでと忠告し、説明を始めた。

「個人の特定というより、魔法の状態がわかるってのが正確かな」

魔法の状態は俺にもわかるが、俺の思っている「状態」とは同じ意味ではなさそうだ。

「状態、というと?」

「例えば今魔法がどの段階まで形成されているか、その系統は何か、とか」

俺とは少し違う。かなり近づいてはいるが、まだ答えではない。

「それが俺とどう繋がると?」


指を一本ずつ上げながら、説明を始めた。

「一般的な魔法は、1・起動、2・属性・系統の選択、威力の設定、3・展開、4・発射の順なの。でも、アルバート君の魔法は違っていて、起動の後に展開が来るの。そんな魔法の出し方をする人には、今まで二回しか出会ったことがない。だから、君だってすぐにわかった」


 入試の時に俺だけ二回計測したのは略式詠唱を使ったからなのか。

「そういうことでしたか」

「何か心当たりはない?」

生徒会だけに留めるという条件で、略式詠唱について説明した。

「ありがとう。それと、今後は私の周りで使う時は言ってね。あれ、酔うから」

「すみません、気をつけます」

その顔は、昨日のあれで酔ったんだろうな。魔法を展開する時、波の様なものが発生することはよく知られている。恐らく、それが原因だ。


 ちょうど話を終えた時、部屋に人が入ってきた。ミーナと会長だ。

「お疲れ、会長」

先輩が声をかける。

「お疲れ様、レーナ。あら、アルバート君も来てたのね」

一応、会釈しておいた。

「お邪魔しています。では、俺はこれで失礼します」

何かしらの話が始まりそうだったので、俺はすぐさま席を立った。そして、もう一度礼をして、扉へと向かう。

しかし、

「今からの話は、アルバート君にも関係あるわよ?」

俺の退室は、その一言によって阻まれた。


 あれから、一時間は捕まっていると思う。

話のほとんどはミーナに対しての生徒会の説明で、俺に対しては校内で魔法を使ったことに対する注意だけだった。

 ミーナへの説明の中に、生徒会特権というものがあった。それは、トラブルなどの対処を魔法で行えるというものだ。それを会長は、俺の一件を例に出して説明していた。

だが、その話は俺には全く関係ない。俺に、制圧などという高度なことなどできるわけがない。


「結局、俺は何のためにいるんですか?」

「一応、執行部への勧誘候補だからよ」

「会長、俺の実技の成績、知ってますか?100点ですよ?」

当然、100点満点ではない。900点満点でだ。

爆炎系以外は全く使えないということは、実技試験を見ていたなら知っているはずだ。

「知っています」

それならば、なぜ。

「昨日の一件を受け、貴方の必要性を感じました」

「昨日の何を見たらその様な考えに至るのですか?」

確かに、火力だけは自信がある。だが、それだけで生徒会に必要な人材であるなど、過大評価にもほどがある。


「今の生徒会の中に、単純な火力勝負では貴方に勝てる生徒はいません。それに、貴方の魔法は起動から完成までがあまりに早い」

「魔法は火力と早さだけではどうしようもないことぐらい、会長がよく知ってるでしょう」


 その場の状況に合わせて様々な魔法を使いこなせる魔法使いが、その戦いを制すのだ。その点で、全ての魔法適正を持つ会長は、無類の強さを誇る。

 火力で全てが決まるような単純なものなら、俺はここまで苦労していない。


「もちろん、今の貴方と戦って負けることはないでしょう。ですが、貴方が成長し、戦い方を覚えたら、細かな魔法制御ができるようになれば、その時はもう、私たちの手には追えないでしょう」

「会長が俺を推す理由はわかりました。ですが、すみません、生徒会に入る気にはなれません」

確かに生徒会としては、俺を野放しにするのは看過できないだろう。だが、それは向こうの都合で、俺には何一つメリットがない。


会長は大きくため息をついて、机に突っ伏した。

「聞いていた通り、簡単には折れてくれませんよね……」

そんな会長を慰めながら、先輩が続けた。

「まあ、エレナがここまで言うのも珍しいんだよ?私に対する恩返しだと思って、前向きに考えてもらえないかな?」

それを言われると、なんとも言えない。

「わかりました、考えはします」


その言葉を残し、俺とミーナは生徒会室を後にした。


「私と一緒に生徒会入ろうよ」

「嫌だ」

「なんでそんなに嫌がるの?」

「俺には務まらない。それに尽きる。あと、俺にもメリットがないし、生徒会にとってもデメリットの方が大きい」

「なるほど……」

ミーナは顔をしかめた。多分わかっていない。

「魔法で鎮圧するなど俺には無理だ。魔法をそのレベルにまで弱くするのはかなり難しい。それに、俺のような紛い物が生徒会に、会長推薦で入れば生徒会の信頼自体に傷が付く」

「あー。そういうことね。でも、私はアルバートならできると思ってる。それと、アルバート自分の手でここに入学したんだから、紛い物なんかじゃない」

ミーナはいつにも増して真剣な顔をしている。これは、説教か。

会長といいこいつといい、どうして俺なんかにここまで期待するのだろう。



魔法適正がたった一つだけだというハンデは、努力では到底埋まらない、途方もなく大きな溝だ。


それは、誰がなんと言おうと、決して揺るがない。


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